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原田 そうですね。私ごとでなんですけど、2019年に母のドキュメンタリー(『女優 原田ヒサ子』)を撮ったんです。それは母が認知症になって、ある時「私15歳のときから女優やってるの」と言い出したんです。でもそれは私のことで、母は一度も女優をやったことがない。なんでだろうと考えていくと、お母さんは私を通して仕事を一緒にしているような気持だったんだな、とか、お母さんはほんとうは俳優をやりたかったんだなとか、分かってきたんです。それで「よーいスタート、カチン」でお母さんをワンカット撮って、そのカットをつなげて映画にしたら、それで映画館にかけたら、母は妄想の中で女優をやっているのではなくて、本当に女優として存在できると思ったんです。

提供:一般社団法人PFF

 それで撮影を始めたら、奇跡のようなワンカットが撮れました。iPhoneで撮ったんですが、母の中の女優魂がふっと映り込むカットがあったんです。それをチェックして見直したときに、出来た! と思いました。それくらい素敵なカットだったんです。ほんの何秒かもしれないですけど、そのワンカットで映画が成立した気がするんですね。いくら私が言葉で説明したとしても、母が「私女優だったの」ということが伝わらないという気がするんです。だけど映像ってそういうことをぱっと映し出してしまうマジックがありますよね。そういうことに出会える楽しさをそのときに体感しました。

提供:一般社団法人PFF

スラムダンクは3回観ても飽きない

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原田 私去年、スラムダンク(『THE FIRST SLAM DUNK』)3回映画館で観たんですよ、無茶苦茶面白いんですよ。(井上雄彦監督は)いまの映画監督の中でいちばんだなと思うくらい、すごいんですよね。何がすごいって、瞬間の捉え方。一瞬をどう拡大して、どうつかむか、その捉え方。私感動したのは、皆さんご覧になってますかね(笑)、リョータのお母さん。若いんですけど、旦那さん死んじゃって長男が死んじゃって、リョータと妹を育てている。そのお母さんの質感、肌とか髪の毛とか、泣きたいけど泣かなくて生活を必死にやってる、その人の汗のにおいがするような気がしたんです。そこまできちんと(人間を)見ている人が、それをきちんと描くっていうことが素敵だなと思いました。3回観ても飽きないんです。