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将来の介護への不安「犠牲になってもらわないと…」

事件当時のことを吉田被告は、法廷で「介護のことが念頭にあった。その時点では元気になるとは思えませんでした。犠牲になってもらわないといけないと思った」いつか到来するかもしれない“介護への漠然とした不安”があったことを語っている。

殺害後、吉田被告は子供らに電話をした後、自ら119番通報。「ちょっとですね、殺害したのですが。妻を殺害しまして、動かないのですが」などと話し、その後マイナンバーカードなどの身分証明証や「妻を殺害いたしました」と書いた紙をテーブルの上に用意して、救急と警察の到着を待っていた。

遺族は「家族の責任」と寛大な処分を要望

検察は論告で「自分たちでは介護はできない、介護を避けるためには妻を犠牲にするしかないと考えた」とした上で「長年生活を共にしてきた夫から身勝手で理不尽な理由で首を絞められ、驚きと苦痛の中で、その生涯を閉じることになったのであり、その無念さは計り知れない」と指摘して、懲役12年を求刑。

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東京地裁で開かれた初公判(2024年9月12日)

一方の弁護側は「50年以上連れ添った妻を見かね、子どもに面倒を見させる迷惑や苦労に思いをいたした被告人なりの思いや考えがあった」と主張して、懲役5年が相当だと述べた。遺族でもある子どもたちは事件について「家族の責任」と話し、また京子さんの兄弟も吉田被告に対して「寛大な処分を望む」としている。

厚生労働省の2023年の発表によれば、同居して介護する世帯のうち、介護を受ける人と世話をする人がともに65歳以上のいわゆる「老老介護」の割合は63.5%となっている。今回の事件は、夫婦ともに身の回りのことは自分ででき、「老老介護」の状態ではない。吉田被告も「妻を介護施設に入れる検討もしたが、要介護の基準に届いていないので現実的には難しいだろうと思った」と語っている。しかし年老いていく中で吉田被告と同様の立場に置かれ、“漠然とした介護への不安”を感じる人は少なくないのかもしれない。

裁判員から「京子さんがどう思っていると思うか」と問われた吉田被告は、「それを私も一番聞きたい。どういう風に思ってくれてるのかなと。50何年一緒に過ごしてましたからね」と話した。判決は、9月20日に言い渡される。
【執筆:フジテレビ 社会部 司法担当 空閑悠】