小学生時代、担任だった男性教諭から性暴力を受け、後遺症に悩まされてきた石丸素介さん(41)。この元男性教諭を相手に裁判を戦ってきたが、一審では証拠不十分として敗訴。だが、「文藝春秋 電子版」での「実名・顔出しの告発記事」がきっかけとなり、二審では同級生たちが証人として名乗り出た。結果、30年ほど前の性被害の事実を認め、後遺症の損害賠償として慰謝料・利息合わせ約4000万円の支払いを命じる画期的な判決が下った。この判決は9月20日、最高裁で確定した。

 

子どもの性被害に対する歴史的判決に至るまでの過程を、「文藝春秋 電子版」の記事から一部紹介する。

■連載 秋山千佳「ルポ男児の性被害」
第1回・前編 「成長はどうなっているかな」小学校担任教師による継続的わいせつ行為《被害男性が実名告発》
第1回・後編 《わいせつ被害者が実名・顔出し告発》小学校教師は否認も、クラスメートが重要証言「明らかな嘘です」

第8回・前編「《異例の逆転勝訴》性被害から20年、クラスメートの新証言がわいせつ男性教諭の数々の“嘘”を暴いた」

第8回・後編「《賠償金約4000万円》法廷でも被害者の人格を攻撃 わいせつ男性教諭に画期的判決が下った“3つの理由”」

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「3人でお風呂に入りました。普通に」

 小学校時代の担任による性被害から後遺症を発症した石丸素介。

 外出もままならない病状のなか、裁判を続け、実名告発に踏み切った。

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 そんな彼の覚悟に突き動かされて、級友だった鈴木大樹が法廷の証言台に立った。

 石丸の代理人弁護士・今西順一からの主尋問が始まる。

 

 鈴木は、担任だった奥田達也(仮名)をどのような先生だと認識していたか、という今西の問いに答えて言った。

「スポーツができて男子児童と距離が近く、スキンシップが多い先生だと認識していました」

 さらに、先に証人として立った級友・柳和樹の証言を補強するように、体罰についても言及していく。

 被告席の奥田はそんな鈴木に目もくれず、無表情に戻っている。だが、今西が「スキンシップが多い先生というのは具体的にどういうことですか」と質問した瞬間、とっさに顔を伏せ、目を閉じた。

 鈴木が、公にしようと決めてきた“真実”に言及しはじめた。

「先生に膝に乗るように言われて、太もものあたりを触られました。半ズボンを穿いていたので、太ももをさするような感じで触られました」

 奥田が刑事事件で有罪判決を受けたことは知っているか、という問いにはこう答えた。

「ネットニュースで知って、やっぱりな、と思いました。僕も自宅に呼ばれたことがあったからです」

 小学校高学年時、鈴木は学校で奥田のパソコン入力作業を手伝う機会がしばしばあり、その際に声をかけられた。日頃から触られることが多く、1人で行くのが直感的に不安になった鈴木は、その場にいた級友の男子Cを無理やり誘って、奥田の車に乗った。

 奥田の自宅マンションに着くと、奥田は教え子2人を風呂場へと促した。

「3人でお風呂に入りました。普通に入って出ました」

 鈴木は淡々と証言を続ける。

「Cくんはテレビゲームをしていて、先生が椅子に座って、僕が膝の上に乗るような形になりました。その時に、先生が僕のパンツの中に手を入れて、陰茎を触ってきました」

 鈴木自身が奥田から性被害を受けた一人だったのだ。その行為が仔細に述べられていく。それは奥田の逮捕報道を見た2017年に蘇った記憶だった。その際、母親にだけ打ち明けていた。

 奥田がため息をつき、天井を仰いだ。

石丸さん ©文藝春秋

 鈴木は「スキンシップの多い先生だったので、その延長線上のことかなと。1人ではなかったので怖くはなかったです。(帰宅後に親に話は)しなかったです。本当に日頃のスキンシップの延長線上だと思って、気に入ってもらえたのかな、と思ったくらいでした」と被害当時の心境を語った。行為の意味がわからなかったのかと今西に確認されると、「そうです」と頷いた。

 当時の石丸については、こう証言した。

「先生のお気に入りという印象です。膝に乗せられている時、石丸くんが無表情だったのを一番覚えています。なんでなのかな、と思ったので記憶に残っていることです」