文春オンライン

1000人以上にがんを告知した医師も「セカンドオピニオンをすすめます」

森山紀之医師インタビュー #2

2018/05/29
note

どんな治療法にもリスクはある

──なるべくリスクの少ないものを選びたい気もしますが……。

森山 どんな治療法にもリスクはあります。100%の絶対なんてあり得ない。だからこそ、テレビで「私、失敗しないので」と言い切る女医のドラマがかっこいいと人気になったわけです。あんな医者、世界中探してもいないですけどね。それに、全盛期のイチロー選手の打率だって3割8分です。6割2分は打てないんですよ。でも打てない7割を非難する人はいませんよね。野球界では一般的に打率3割以上打てば “一流”なんです。

 

 また、よく「標準治療は並みの治療で、先進治療が最良の治療」だと誤解している人がいますが、これは大きな間違いです。「標準治療」は「松竹梅」の竹、という意味ではありません。大規模な臨床試験によって効果が証明された、現時点で最良だと推奨できる治療法のことなのです。医師はその標準治療を第一に、患者さんに最善と思われる治療法を提案している、ということを知っていただきたいと思います。

ADVERTISEMENT

──それでも「死」が少しでも垣間見えると、「100%」「絶対」という言葉が、どうしても魅力的に聞こえてしまいます。

森山 プレッシャーがかかると、人間は判断を誤るので、プレッシャーに弱い人は、技術力があっても試合には勝てません。がん患者さんが時に普通の精神状態なら選ばないような判断をしてしまうのは、闘病中のがん患者さんは、プレッシャーのかかるスポーツの試合を行っているようなものだからなんです。

 でも冷静に考えてみれば、我々はもともと「年齢」という非常に進行の遅いがんを背負っているようなものなんですよ。「がん=すぐ死ぬ」という考えは今も根強くありますが、がんっていうのは、よほど進行していても、1カ月くらいの猶予はあるんです。進行がんでない場合は、「年齢」のようにもっと「猶予」が長くなります。人間は後ろが見えると怖くなるものですが、後ろを見て怖がるのではなく、できることをするための時間を与えられたと思えば、事故や事件で突然命を失うケースに比べて、不幸とは言い切れないのではないかと私は思っています。

©iStock.com

写真=末永裕樹/文藝春秋

1000人以上にがんを告知した医師も「セカンドオピニオンをすすめます」

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー