上告中の1987年に荒木被告は癌と診断されて八王子医療刑務所に移監されたが、1989年に死亡してしまったため、公訴棄却となった。
荒木被告の口から真相が語られることはなく、疑惑だけが残った。
2審で逆転無罪になった「ロス疑惑事件」
やはり、自白も有力な物的証拠もなく逮捕・起訴された事件で一番有名なのは、週刊文春が連続追及して話題になった三浦和義氏の「ロス疑惑事件」であろう。
新妻を殺された悲劇の主人公から一転、妻に多額の保険金をかけて殺したのではないかという疑惑が浮上。
1984年に文春が「疑惑の銃弾」というタイトルで連載を始め、他のメディアも後追いした。三浦氏のキャラクターもあって大騒ぎになった。多くのメディアが囃(はや)し立て、世論も「なぜ三浦を逮捕しないのか」と騒ぎ、仕方なく警視庁は1985年、三浦氏を逮捕・起訴したのである。
しかも、状況証拠だけで有力な物証も自白もなかったのに1審は有罪になった。
当時私は週刊現代の編集長だった。2審判決が出る前に、「状況証拠だけで有罪はおかしい、無罪だ」と誌面で主張し、その通りに逆転無罪判決。最高裁まで持ち込まれたが、2003年に保険金殺人では三浦氏の無罪が確定した。
私は、事件前も事件後も、三浦氏と何度か会っているが、「保険金殺人疑惑」は“真っ白無罪”なのかといわれれば、100%そうだとはいい切れないものがあったのは確かである。
だが、「疑わしきは罰せず」「たとえ10人の真犯人を逃したとしても、1人の無実の者を処罰しては絶対にならない」は刑事訴訟の基本原則である。
夏祭りが恐怖の一夜に変わった「毒物カレー事件」
最後に、「和歌山毒物カレー事件」について見てみたい。
1998年7月25日に和歌山市園部地区で開催された夏祭りの最中、自治会が提供したカレーにヒ素が混入していて、67人が中毒症状を訴え、4人が死亡した事件である。
和歌山県警は10月4日、別件で同地区の主婦・林眞須美を逮捕し、12月9日にカレーの鍋に亜ヒ酸を混入した殺人、殺人未遂容疑で再逮捕、起訴した。