今作では、人目を気にせず自由奔放に生きる主人公を演じた伊藤万理華。「これまでの自分をすべて壊して挑んだ」というチャチャの役づくりと演じることへの想いを聞いた。
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役に親近感を覚えたけど、役づくりは今までで一番苦労した
――脚本を読んでチャチャというキャラクターをどう思われましたか?
自分の中にも、まわりにどう思われようと自由に自身を謳歌するチャチャと同じ素質があると感じました。でも一方で、そんなチャチャを俯瞰して見る目線もあります。ただ、どちらかを選べと言われたら、私はきっとチャチャである自分を選ぶと思います。それほど役に親近感を覚え、絶対にやりたいと思いました。
――では、役づくりにはそれほど苦労されなかった?
それが、今までで一番苦労しました。撮影初日までに、自分の中にチャチャ像をつくっていったのですが、酒井(麻衣)監督に「全部違う」とバッサリ切られたんです。
チャチャを演じるのには、それまで自分がやってきた役との向き合い方がまったく通用しなかった。今まで俳優として築き上げてきたものを一度全部壊さないとできなかったので、そこは本当に難しかったです。
赤ちゃんのように真っ白な気持ちでやろうと
――具体的にはどのようなリクエストがありましたか?
酒井監督からは、手の動きひとつから表情、声色まで徹底的に直していただきました。それでいて「伊藤さんのままで演じてください」という、一見矛盾していると思えるリクエストも……。自己表現はこれまでもやってきましたが、お芝居で「そのまま」ってどうやるのだろう、と苦しみました。
結果、赤ちゃんのように真っ白な気持ちでやろうと決めて、妥協しない酒井監督に必死でついていきました。
――大変な現場だったのですね。
酒井監督のアドバイスを受け、これはきっと、これまでの私の延長線上ではなく、越えないと次にいけない壁なんだろうなと感じました。
私自身が個展を開いてきたこともあって、『サマーフィルムにのって』(21年)以降は、作り手側を演じさせていただくことも多かったのですが、今作は、いい意味でその確立されたものを一度すべて壊す、よい機会になったと思います。
――チャチャのようにまっすぐに、好きなものや人に向かって生きることに、伊藤さんは共感されますか?
共感します。いいなと思った感情を無視せず、なぜそれをいいと思うのかを深掘りして探り続ける。それによって自身の感情の源泉が見えてくるので、自分という人間が理解でき、もっと自分を好きになれると思っています。