不幸な生い立ちの男は、なぜ男児20人を襲う小児性犯罪者になってしまったのか…。同問題を語るうえで知っておくべき「負の連鎖」の正体を、西川口榎本クリニックの副院長(精神保健福祉士・社会福祉士)としてさまざまな依存症治療に取り組む斉藤章佳氏の著書『子どもへの性加害 性的グルーミングとは何か』(幻冬舎新書)より一部を抜粋してお届けする。(全2回の2回目/最初から読む)

写真はイメージ ©getty

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被害者が加害者になる「負のサイクル」

 虐待され、学校でもいじめにあったGは一時は死ぬことも考えていたといいます。そんななか、「分け隔てなく接してくれる子どもに近づきたい」と思うようになり、「男の子と接しているときは、安心感やぬくもりを感じた」と裁判では述べていました。

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 母親のアルコール依存症、家庭での虐待、学校でのいじめ、不登校……Gの生い立ちには同情すべき点もありますが、もちろん罪を犯していい理由には到底なりえません。絶対に加害者を許せないと考える被害者感情はもっともです。

 また、ここで明記しておきたいのが、虐待や性被害にあった人すべてが、その後の人生において加害者になるわけではないということです。子どもへの性的嗜好を持つようになるのも、むしろ少数派といえるでしょう。

 しかし、加害者臨床のなかでは、過去に自分が支配され、まるで人間ではなくモノのように扱われた経験のある被害者が、大人になって力を持ったときに自分よりも弱い立場の人に対して同じように振る舞うという「負のサイクル」に出会うことがよくあります。これを私たちは「被害者から加害者への道」と呼んでいます。

 性暴力は、必ず権力関係のなかで起きます。上の立場に立つ者、力の強い者が、下の立場にいる者、力の弱い者に対して暴力を行使するものです。そしてその「支配―被支配」の関係で行われた性暴力は、残念ながら再生産されてしまうことがあるのです。

 さらにGには、「男の子は性に関心があるので、陰部を触っても性的に興奮し、許される」といった認知の歪みも見られました。