小児性犯罪者になる人間には、幼少期に自身が暴力的行為にさらされた者も。ここでは、男児20人に性的暴行やわいせつ行為などをした罪に問われ、懲役20年の実刑判決が言い渡された、男性シッターの事例を紹介。

 西川口榎本クリニックの副院長(精神保健福祉士・社会福祉士)としてさまざまな依存症治療に取り組む斉藤章佳氏の著書『子どもへの性加害 性的グルーミングとは何か』(幻冬舎新書)より一部を抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)

写真はイメージ ©getty

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性加害や性虐待は「魂の殺人」

 幼少期の家庭内での虐待、学校でのいじめ、性被害などが直接的、間接的に影響を及ぼし、のちに子どもへの性的嗜好や性虐待につながる事例を加害者臨床の現場ではしばしば見かけます。

 書籍(38P)では、面識のある関係でのグルーミングの例を挙げました。小学生男児が同じ団地に住む「やさしいお兄さん」からグルーミングされ、その後4年間にもわたって性被害を受け続けた事例です。

 実はこの被害にあった男児こそ、のちに私が某刑務所で面会した受刑者でした。

 この被害男児はのちに加害者となり、刑務所に収監されていたのです。

 ここでは彼を仮にFとしましょう。Fは女児に対する強制わいせつ罪(当時)で実刑判決を受け、刑務所に収監されていました。彼が実刑判決を受けるのは、これが3度目です。

 いずれも子どもへの強制わいせつや強制性交等罪(当時)でした。

 私が生業としている精神保健福祉士や社会福祉士の業務は多岐にわたります。そのうちのひとつに、刑事施設や少年院などの矯正施設に収容されている人の出所・釈放後の就業先や住まいなどの環境を調べ、確保し、そのうえで彼らが再犯をしないようにするための「生活環境の調整」という出口支援業務があります。私はこの業務のために、Fと刑務所内で面会しました。このような特別な面会の依頼は、全国の地方更生保護委員会から打診があります。

 Fとの面会は1時間半ほどでしたが、その間、彼は自身が幼い頃にグルーミングからの性被害にあったことを私に打ち明けました。一般に性犯罪の加害者が逮捕され、裁判で実刑となった場合、刑務所内では通称「R3プログラム」と呼ばれる性犯罪再犯防止指導が行われているのですが、彼もまたこのプログラムを受講していました。

 このカリキュラムのなかには「自分史」というものもあります。幼いときから現在までの自分の歴史を振り返り、グループ内で発表するのが大枠です。彼も自分の生い立ちを見つめ直すうちに、自分自身も幼い頃にグルーミングされ、最後には口腔性交や肛門性交にまで至る性被害にあったという事実にそこで初めて気づいたのです。