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 お腹に宿した二つの命を失ったカミさんは、妊娠恐怖症――つまり、セックスを怖がるようになった。

 もしも、また妊娠したら……。あの地獄のような苦しみと悲しみを経験することになるかもしれない。その恐怖は、男の僕にだって痛いほど想像できる。

「他の女性と浮気してもいいのよ」

 彼女はよく、こう言ったものだ。

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「他の女性と浮気してもいいのよ。私はもう、あなたの子供を産んであげられないから、他の女の人と表で遊んできてちょうだい」

 ペコはどういった気持ちで、こんなことを言ったのか……。僕の心は深く痛んだが、カミさんの申し出を受け入れて、このときから、僕ら夫婦の寝室は別々となった。

 以来40年以上、僕たち夫婦は、ずっと別の寝室で休んできた。

 当然、肌の触れ合いもない夫婦だった。

「啓介さんに隠し子がいたら? いいのよ、あたし全然気にしないから。むしろ、啓介さんの血を引いた子なら、引き取って育ててみたいもん」

 酒に酔って「啓介は、どっかに隠し子でもいるんじゃないの?」と軽口を叩く悪友の前で、カミさんがそう言い放ったことがある。

 はたして、彼女のこの言葉は本心からの言葉だったのだろうか。

 もし、「実は俺には隠し子が……」と実際に切り出したとしたら、彼女はどんな顔をしたんだろう。今となっては謎だ。

 確かに僕は自分の子供を切望していたけれど、よそで子供を作ったことは一度もない。それは、カミさんへの最大の裏切り行為のような気がしていたからだ。

 正直に告白すると、30代から40代の男盛りの頃は、僕も人並みに女性と遊んでいた。浮気相手も、一人や二人ではなかった。

 ただ、「誘惑に負けた男が、何をエラそうに」と思われるかもしれないが、浮気はしても、絶対にカミさんには悟られないよう、最大限、気を配っているつもりだった。

 だが……。