1ページ目から読む
3/3ページ目

 ある日突然、浮気相手の女の子が、家に電話をかけてきたことがあった。しかも不運なことに、在宅していたカミさんが受話器を取ってしまったのだ。

「あの人は、私の旦那です。あなたにこんな電話をかけてこられても、困るんですよ。私はいつも、あの人と一緒にいますから!」

 幸か不幸か、僕はその場にいなかった。後で浮気相手の女の子に聞かされて、初めて事の次第を知ったのだ。

ADVERTISEMENT

“僕の浮気の代償”

 青ざめると同時に、僕の頭には疑問が浮かんだ。

 なぜ、カミさんは、そのことを僕に言わなかったんだろう?

 普通ならば、すぐさま「なんなのよ! あの子は!?」「信じられない!! コソコソと外で女を作っていたなんて!」と、怒りのままに僕を責め立てるものなんじゃないだろうか。だが、もしかしたら……。

パートナーに浮気された声優の大山のぶ代さん ©文藝春秋

 彼女が知らないフリをしていたのは、「夫を肉体的に満足させられない」という負い目からなんだろうか。

 カミさんの心の内を想像すると、僕はやりきれない思いに襲われた。

 正面切ってなじられるよりも、沈黙されるほうがずっとしんどい。ずっと切ない。カミさんの激しい苦しみが伝わってきてしまうから……。

 それを痛いほど思い知らされたことが、“僕の浮気の代償”だったのかもしれない。