「ペコはいつも、あなたの幸せだけを願っていました。
これからは、とにかく彼女を大切にしてあげて欲しい。
ペコに、どうかよろしく伝えて下さい」
黒柳さんが、そのようなことを書いたのも無理はない。
僕が還暦記念のライブを開いたときも、黒柳さんに台本を持って行って、「ゲスト出演してくれないか」と頼んだのはカミさんだった。
仲間同士でカラオケに行ったときだって、カミさんは絶対に歌わず、僕にリクエストしてばかりだったな。友人たちからは「君の一番のファンは、大山さんだよね」なんて、よく、からかわれていたっけ――。
僕をずっと見つめ続けてきてくれた、ペコ。
今度は、僕が、彼女を一番近くで見つめる番なんだ。
広がった世界
『徹子の部屋』の収録に呼んでいただいたのは、僕がラジオでペコの認知症を公表してから間もない頃――。
収録では、黒柳さんに宛てたカミさんのメッセージも流された。
「チャック、ペコです。
お久しぶりです。お元気ですか?
啓介さんにファクスが届いて。ありがとうございます。
また番組に啓介さんが出ることになって。よろしくお願いします。
私も頑張りますから。
またね。じゃ、ありがとう」
これは、僕も事前にまったく聞かされていなかったので、かなりビックリさせられた。どうやら、カミさんが小林に手伝ってもらい、こっそり黒柳さんに宛てて録音していたらしいのだ。
少しおぼつかない部分もあったが、メッセージを読み上げる声にはハリがあり、何よりも、ドラえもんの声そのものだった。
思わず黒柳さんが声を詰まらせる様子を目の当たりにして、僕の胸にも熱いものが込み上げていた。
2015年6月12日、『徹子の部屋』のオンエアを、僕は自宅2階のリビングにある大きな画面のテレビで、カミさんと一緒に見た。
「なんで、こんな大げさに……」
カミさんの感想は、この一言だけ。
どうやら、そこで初めて、自分が認知症であることが公表されたと認識したようなのだ。僕はラジオで告白する前に、彼女には少し説明をしたのだが、やっぱり覚えていなかったのだろう。
「ちっとも大げさじゃないんだよ。皆に分かってもらったほうがいいでしょ。ペコが元気になるためにも、本当のことを知ってもらって頑張らないとな」
「うん、あたし、頑張るわ」
番組の中で、徹子さんは画面を通じてカミさんにメッセージを送ってくれた。