「ペコ、徹子さんがペコに伝えたいことがあるみたいだよ」
僕が彼女にそう話しかけると、画面に、笑顔で話す徹子さんの姿が映し出される。
「大山さん、大山さん――。
黒柳徹子ですけど、覚えてる?
一緒に、ご飯食べに行きましょうね。
もう(私の)芝居は終わっちゃったけど、また観に来てくださいね」
「行く行く! あたし、行くよ~」
テレビに向かって手を振りながら、子供のようにはしゃぐカミさん。その笑顔を見ながら、僕はしみじみと感じていた。
思い切って、カミさんが認知症であると公表して本当に良かった。
僕の決断は間違っていなかったんだ、と――。
僕とカミさんの世界は大きく広がった
カミさんの古い友人たちからも、次々に励ましの連絡をもらった。
「ねえ、砂川さん。のぶ代さんは、私のこと覚えてるかしら?」
「どうだろう……。でも、体調にもよるけれど、親しい人のことは覚えているときもあるんだよ。もしよかったら、時間のあるときに電話でもかけてやってくれないかな?」
その友人は、さっそく電話をくれた。内心ちょっと心配だったものの、カミさんはしっかり彼女のことを覚えていて、しばしの間、思い出話で盛り上がったようだった。
ペコ、ごめんな。
ペコだって、本当はもっと早く皆と会ったり、話したりしたかったんだよね。
僕が今まで隠し通していたせいで、君は友達と触れ合う機会を失っていたんだ。
僕と二人きりの狭い世界に閉じ込められていたんだね。
本当のことを明かした今、僕とカミさんの世界は大きく広がった――。