実際のところ、僕が言わずともカミさんの異変を察知していた人は、意外と多かったのかもしれない。きっと皆、マムシ同様に自分から聞くのを憚って、僕が言い出すのを待っていてくれたのではないかと、今では思う。
ただ、だからこそ、カミさんに連絡してくる人も減ってしまった。
「大山さんは大変みたいだし、こちらから連絡したら申し訳ない」
そう気を遣わせてしまったのだろう。僕が秘密にしていたことで、結果的に彼女を世間から隔絶し、孤独に追い込んでいたのかもしれない。
インターネットに書かれた悪質なデマ
さらに、インターネットの掲示板に、酷い書き込みをされていることも気になっていた。
〈大山のぶ代が、バカになったらしい〉という汚い言葉の表現もあれば、中には〈亡くなった〉などという、まったくの悪質なデマもあった。僕は普段、この手の掲示板など見ないのだが、知人から「『大山さんが亡くなった……』という書き込みを見たんだけど、本当なの?」と心配して電話がかかってきたのだ。
カミさんが脳梗塞で倒れてから7年――。
一時的に仕事復帰したとはいえ、ほとんどメディアに登場しなくなったことによって、様々な憶測を呼んでいたのだろう。
このまま間違った情報が流され続ければ、友人はもちろん、仕事でお世話になった人にも心配をかけてしまうことになる。また、いつマスコミに嗅ぎつけられて、予期せぬ形でカミさんの写真を撮られてしまうか分からない。
考えに考えた末、僕は、ラジオで認知症を公表することを決意した。決断してからは、時間の流れが不思議なほど早く感じられた。
マムシが、あれよあれよという間に段取りを整えてくれ、TBSのラジオ番組『大沢悠里のゆうゆうワイド』で告白する日が、ついにやって来た。