さすが介護の番組に出ているだけあって、彼の意見は参考になることが多かった。ただ、「公表したほうがいい」という勧めには、すぐには賛成できなかった。
何よりも、カミさんが四半世紀をかけて築き上げてきたドラえもんのイメージを壊すことに繋がるのではないか、と思ったからだ。
認知症だと世間に知られてしまえば、「明るくて元気な大山のぶ代」のイメージは、粉々になってしまうかもしれない。『ドラえもん』ファンの中には、衝撃を受ける人も多いことだろう。
「認知症で何も分かっていない妻のことを、夫が勝手にしゃべるなんて……」と、批判を受ける可能性だってある。
「啓介が先に逝っちゃったら、ペコはどうなるんだよ」
でも、マムシの一言が僕の心に突き刺さった。
「一人で全部抱え込んでいたら、お前のほうが参っちゃうって……。啓介が先に逝っちゃったら、ペコはどうなるんだよ」
事実、僕はかなり追いつめられていた。
前述のように、カミさんが2012年の秋に認知症の診断を受けてから間もなく、僕は2013年に胃ガンの摘出手術を経験している。2週間ほど入院し、開腹して数センチほど胃を切り取った。そのせいで食は細り、体重もガクンと落ちた。
ガン以外でも肺気腫や帯状疱疹など、これまではかかったことのない病気を次々に患っている。医師によれば、それらの病の一因はストレスもあるのだという。
健康には自信があった僕にとって、これは大きな衝撃だった。
実際、僕は介護生活の中で多大なストレスを感じるようになっていた。いや、「ストレスを抱えていることを意識しないように努めていた」と言ったほうが正しいかもしれない。
頑張らなきゃ。俺がしっかりしないと。カミさんのことに集中しないと……。
そう、自分に言い聞かせていたのだ。
当然、生活は介護中心になり、野沢さんと小林が手伝ってくれるとはいえ、仕事はかなりセーブせざるを得ない。彼女ができるだけ一人にならないように、仕事はそれまでの関わりがあるものだけに限定して、新規のものはすべて断っていたのだ。
僕は子供の頃から、ストレスを感じると身体を動かして発散させるタイプだった。スポーツをしているうちに、自然と心も身体もスッキリする。
だが、この状況では、カミさんを家に一人残してゴルフに行くわけにもいかない。「せめて筋トレやストレッチでも」と思い、家で実践しているが、それだけではなかなかストレス解消とまではいかないのだ。
だからといって、彼女を介護施設に預ける気にはなれなかった。