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永瀬は再びタイトル戦の舞台に帰ってくるだろう
と、しばらくして藤井が「あの問題、銀打つとどうするんですか?」。えっ? 食べながら考えていたの?
上野と徳田、記録係の清水航三段と意見を交わす。
「竜を切って玉を下段に落とすと」
「なるほど、それがありましたか」
いやいやいや、あなたさっきまで秒読みで20手以上も指す、エグい勝負をしてたじゃない。終局直後は顔色が青白かったよ。明らかに疲れていたよ。感想戦もして、記者会見もこなして、もうすぐ日付が変わるよ。なんでまだ考えられるの? なんでそんな光速で変化を詠唱できるのよ? 永瀬は、「藤井さんならすぐに考える」って読み切っていたの?
藤井も上野も徳田も清水も、とても楽しそうな顔でずっと符号を述べ合っている。あああ、将棋に取り憑かれた若者たちよ。
将棋はなんて深くて難しくて面白くて、怖くて、そして残酷なんだろう。
我々は、将棋指しという人生を選んだのだから、この残酷さを楽しむしかない。永瀬もまた、あれほど苦しんでも、将棋から離れることなどできない。「ゼロから」スタートして、またタイトル戦の舞台に帰ってくるだろう。また近いうちに、2人の熱い戦いが見られると信じている。
写真=勝又清和