さて、ドラマのオープニングの語りに話を戻そう。特に第1回放送の4分余りのロングバージョンは、『新装版 坂の上の雲』第1巻と、単行本第1巻のあとがきの文章を巧みに組み合わせて作られている(ただし、わずかにアレンジされている)。
維新によって日本人ははじめて近代的な「国家」というものをもった。(中略)たれもが、「国民」になった。不馴れながら「国民」になった日本人たちは、日本史上の最初の体験者としてその新鮮さに昂揚した。このいたいたしいばかりの昂揚がわからなければ、この段階の歴史はわからない。
(『新装版 坂の上の雲』第8巻 「あとがき一」より)
この物語の主人公は、あるいはこの時代の小さな日本ということになるかもしれないが、ともかくもわれわれは三人の人物のあとを追わねばならない。
(『新装版 坂の上の雲』第1巻「春や昔」)
そして真之、好古を紹介するくだりは「あとがき一」から、子規の紹介は新装版文庫第1巻から引用されている。
司馬遼太郎さんの原作の文章が極めて優れているからこそ実現した語りだが、一方で組み合わせの妙が光る新たな名文の誕生とも言える。冒頭で一気にドラマの物語世界へと引き込むこの語りの“発明”は、脚本の勝利と言っていいだろう。
次回は、第1~4回放送(44分版、「少年の国 前後編」「青雲 前後編」)分の原作エピソードを紹介する。
※文春文庫編集部ではドラマ『坂の上の雲』放送終了直後に、渡辺謙さんの語り部分を中心に、原作から印象深い文章を抜き出した下記のようなポストをしています。
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