再放送中のNHKスペシャルドラマ『坂の上の雲』が、熱い盛り上がりを見せている。原作は司馬遼太郎さんの代表作にして“国民文学”と呼ばれる不朽の名作『坂の上の雲』。明治という激動の時代を駆け抜けた秋山真之(演:本木雅弘)、好古(演:阿部寛)兄弟と、正岡子規(演:香川照之)の3人の若者を中心に、明治人の楽天主義と、生まれたばかりの「国家」の存亡を賭けた戦いとを描く青春群像劇だ。

 ドラマは、基本的には原作に忠実でありながら、脚色を加え構成を変え、新たな魅力を生み出すことに成功している。心に残るあの名場面は原作ではどのように描かれているのか、またドラマでは描かれていないがぜひ読んでほしい原文などを連載で紹介する。

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 ドラマの第1~4回放送(44分版、「少年の国 前後編」「青雲 前後編」)で描かれたのは、子規と真之を中心とする少年期~青年期の物語だった。そこに挿入される恋愛物語は、明らかに原作とは異なる趣きがある。

 例えば、子規の妹で「リーさん」ことお律(演:菅野美穂)の真之に対する恋心。最初の嫁入り前にわざわざ上京して真之の着物を仕立てるシーンや、松山の実家を訪ねてきた真之とすれ違ってしまったため必死に走って後を追うシーン、そして三津浜で再会できた真之が船で去っていくのを大きく手を振って見送るシーンなど、お律が真之を深く慕っているように描かれている。

お律が真之を追いかけて渡った屋根付き橋(ロケ地は愛媛県内子町の田丸橋)

 ところが実は、原作では2人の絡みはさほど多くはない。が、お律が真之に惹かれていることを暗示する、子規療養中の松山での次のようなやりとりがある。

 この日、子規が帰ると、

 ――秋山さんから使いがきた。

 と、お律がいった。

「なんの用だろう」

「江田島の淳(真之(さねゆき))さんからのことづてで、この二、三日じゅうに帰るからとにかくお見舞にゆきます、ということ」

(こいつ、赤くなっている)

 とおもったが、お律からみれば子規のほうが、たださえさがっている目尻をたっぷりさげて、

「それまでに快(よ)うならな、いけん」

 といった。真之とあのようなわかれかたで別れて以来、一度も会っていない。

『新装版 坂の上の雲』第1巻「ほととぎす」より)