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配信ドラマ制作会社「日本は10社程度、ソウルは150社以上」

 下部構造とはエンタメ業界のエコシステムです。かつてドラマの制作会社はどこの国でも放送局より力が弱く、制作費を定額で受託する請負会社の意味合いが強かった。

 しかし、2010年ごろから風向きが変わりました。国境をまたぐ配信事業者の出現で、ゼロからイチを生み出す優良プロダクションが力を持ち出したのです。世界中の制作会社が自ら知的所有権を保有し、成功報酬で作品作りをするように様変わりしました。放送局は垂直統合していた制作機能を維持できなくなり、そこから続々と独立する制作会社が増えたのです。

(写真はイメージ画像) ©west/イメージマート

 代表的なところでは、エリザベス女王を描いた大ヒットドラマ『ザ・クラウン』を制作した英国のレフト・バンク・ピクチャーズ。そして韓国で『愛の不時着』や『涙の女王』など大ヒットを連発するスタジオ・ドラゴンがあります。

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 いずれも創業から数年で、放送局以上の時価総額を持つ大企業に急成長。こうした会社は数倍もの給料を提示して、プロデューサーを引き抜いていったのです。その結果、高品質な作品作りに挑む制作会社が群雄割拠するハリウッド型の国内市場が形成されました。現在、日本国内では配信向けドラマを制作する会社は10社程度、一方ソウルには、150社以上がひしめいていることが象徴的です。

 さらに、こうした産業構造の変化を後押しする工夫が制作現場で広まります。例えば、「ショーランナー」の存在です。日本の多くの方には、まだ聞き馴染みがないでしょう。「ショーランナー」とは、プロデューサーと監督のあいだに立ち、作品制作の全体を指揮する人物を指します。職能としては脚本家に近いのですが、従来の脚本家と違うのは、その下にさらに複数の脚本家たちがチームとして組織されており、脚本以外にも演出や予算回りのことなど、すべてをショーランナーがワントップで指揮するのです。

 日本で脚本家というと、1人の先生が脚本のすべてを書くイメージが根強いと思います。けれど、今のハリウッドでは複数の脚本家が一つの作品の脚本を書くのが当たり前の仕組みになっているのです。

 有名なショーランナーとしては『ザ・クラウン』の脚本家であるピーター・モーガンがいます。韓国もこの仕組みを取り入れており、ショーランナーのもとに複数の脚本家が「コメディ担当」「ラブストーリー担当」のように集まって脚本の質を上げていく。ショーランナーは、ドラマ全体の構造を把握しつつ、1話ごとに盛り上げたり、どん底に陥れたりして、数十話(数十時間)続くドラマ全体を指揮するのです。

 逆に、監督の存在感は相対的に小さくなります。最近は1人の監督が第1話から第3話までしか担当しておらず、その後は別の監督が担当することがよくあります。クレジットをみても、複数の監督が並んでいることも多い。配信では、ヒットドラマの続編が「シーズン2」として制作されることも多いですが、全話をチェックするのは監督ではなく、ショーランナーなのです。それこそワンカット、ワンカットを細かく見ています。『ザ・クラウン』はシーズン6まで作られて60話もありますが、ピーター・モーガンが物語全体を構成しています。