美智子さまが10月20日、90歳の誕生日を迎えられた。長年交流のある末盛千枝子氏(83)が「文藝春秋 電子版」のインタビューに応じ、50年にわたる美智子さまとの交流秘話を語った。

 編集者として、美智子さまの著書『橋をかける』(1998年)を手掛けたことでも知られる末盛氏。そもそもの出会いは、末盛氏の父で戦後日本を代表する彫刻家、舟越保武の作品が関係しているという。

「私が編集者見習いをしていた出版社の雑誌が、父のデッサンを表紙に使っていました。美智子さまはこれをお読みになっていて、表紙をいたくお気に召していたらしいんです。その頃、画家の堀文子さんの家で集まりがあって、私は手伝いに駆り出され、そこでお目にかかったのが最初。私は20代後半でした」

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舟越保武の作品を鑑賞される美智子さま(左)。右は末盛千枝子氏(2015年) ©時事通信社

美智子さまが購入された作品の背景

 舟越保武のファンだったという美智子さま。これまで舟越作品を2点、購入されたことがあるという。

「父の展覧会が世田谷美術館(「信仰と詩心の彫刻六十年 舟越保武の世界」、1994年)でありました。その新聞広告をご覧になって美術館にいらして、とても喜んで作品を見てくださいました。そして、どうしても欲しいという話になって。詳しい経緯はもう覚えていないんですけれど……」

 そうして購入された作品が「聖ベロニカ」だった。

「ベロニカは、キリストが十字架を背負って、血の汗を流しながらヨタヨタと刑場に向かって歩いているときに、気の毒に思って周囲のローマ兵をものともせず、白い布を差し出す。『これでお顔をぬぐってください』と。これは聖書に出てくる話ですが、父はとても好きだったので、ベロニカは何回も作っています」

舟越保武作「聖ベロニカ」(大谷一郎撮影、『舟越保武―まなざしの向こうに—』求龍堂刊より)

 しかし、「聖ベロニカ」を購入される際に、他に迷われていた作品があった。