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ロマンポルノだからこそ可能だった本格的なプロレスシーン

 破天荒な映画である。成人映画でそんなことが許されたのは、ロマンポルノというフォーマットの特性だった。予算や機材、制作日数は限られている代わり、成人映画としてのセクシーシーンさえあれば、あとは破天荒でもOKという企画の自由度があり、それゆえに新世代の才能が輩出される場としても機能していた。

 そんな土壌で生まれた才能のひとりが、『セーラー服 百合族』(83年)で注目された監督・那須博之だった。

 那須はプロレスを撮るにあたり、人気ドラマ『特捜最前線』などで頭角を現していた高瀬将嗣という若手アクション監督に声をかける。高瀬はそのとき那須にかけられた言葉を、こう回想している。

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《「オレはアクションが撮りたくて監督になったんだ。映画はアクションだよな? オレたちで新しいアクションを作ろうぜ、な?」》(高瀬将嗣『技斗番長活劇戦記』/洋泉社刊)

 自身もプロレス好きであった高瀬は、即座に快諾した。

「先生(高瀬)も、うれしかったと思いますよ。よく一緒にプロレスを観に行って、技を無理やりアクション・シーンに取り込んだりしてね(笑)。那須監督もプロレスマニアでしたから『こんな技を入れられねえかな』と楽しそうに打ち合わせをしていましたっけ」

 そう語るのは、今年大ヒットした映画『帰ってきた あぶない刑事』の技斗(アクション)を担当した瀬木一将。現在も高瀬が率いた高瀬道場に在籍し、後進の指導にあたっている。

「いくらなんでも、そこまでプロレスに時間を割くなよ」という小言をよそに

 さて、映画でプロレスをできるのはよかったが、高瀬にとって問題は女優たちにプロレスどころか、アクションの経験がないことだった。

山本奈津子「ともだち探し」

 吹替(ボディダブル)を使う余裕もないから、プロレスシーンはすべて女優たちが演じなければならない。女優の多くが看板スターだから、ムリをさせられない。しかもロマンポルノ作品の平均制作期間は10日前後。時間もない。

「そこで女優さんたちには受け身を重点的に覚えてもらいました。倒れ方を覚えることが、安全にアクションを行う基本ですから。僕は現場には行けませんでしたが、練習のサポートをしました。最初は厚くて柔らかいマットの上で練習して、ある程度身についたら体育用のマットに移動。プロレスのリングは体育マットよりも弾性があるから、ここで受け身が身につけば大丈夫だろう、と」(瀬木)

 ひとつ幸いだったのは、当時の女子プロレスでは打突系の技がそこまでメジャーではなかったことだ。空手を女子プロレスに持ち込んでスターになったクラッシュ・ギャルズが初陣を飾ったのは、撮影の数カ月前だった。

「相手に当てないようにしながら、観客を魅了するような打突を身につけるほうが難しいし、時間がかかりますから」(瀬木)

小田かおる

 そして限られた機材での画づくりを考えた。高瀬たちが組み立てたアクションの流れを、前出の女優兼ファイティング・ディレクターの佐藤ちのに伝え、指導してもらう。それを聞いた女優たちは必死に身体を張る……。

 気づけば、会社からの「いくらなんでも、そこまでプロレスに時間を割くなよ」という小言をよそに、撮影に関わる人たちがみなプロレスに熱中していた。