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 登場人物がさらに増えてきたので、プラントやサリン、禁制薬物など、各人が何をやっていたか証明できるものは全てコピーを取り、整理していた。その分量は、すでに風呂敷ひと包み以上になっている。

「ハラさん。悪いけど、それまとめてくれませんか」

 一課長から頼まれた。科学的な内容における繋がりしか掴めなかったが、後に令状を請求する段階で、各容疑者を担当する捜査員にこれらを説明することになる。地検でも同様だった。

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 4月28日の朝だった。一課長から、

「土谷に会ってきてくれませんか」

 と言われた。第二厚生省大臣の土谷正実。「クシティガルバ棟」の主である。一昨日、第2サティアンの地下隠し部屋で逮捕されていたが、何もしゃべらないらしい。

「科学の話でもしてきてください」

「オウムはどうだったの? 研究はできたの?」「最高だった」

 しばらくすると、新橋の分析センターでデスクを務める小山金七係長から電話がかかってきた。別名「落としの金七」。寺尾一課長が丸の内署の刑事課長だった時代に右腕として働き、数々の指名手配犯を検挙している。その金七さんからのアドバイスだった。

「服藤先生。土谷に会うんですって? いつですか」

 捜査員が科捜研の研究員を「先生」と呼ぶのは、慣例となっていた。

「今日の夕方です」

「時間がないですね。先生の場合は取り調べではないので、土谷の学生時代や研究のことなど調べておいたほうがいいと思います」

 と言って、ポイントを教えてくれた。土谷は、都立高校から一浪して筑波大学農林学類に入学。大学院の化学研究科へ進んで、有機物理化学を専攻している。すぐに筑波大学大学院の研究室に電話し、在学当時の研究内容や文献を手に入れた。

「築地署に行ったら、サングラス風の眼鏡をかけてパンチパーマのヤクザみたいな、大峯というのがいますから」

 と、寺尾一課長から言われていた。午後6時頃に築地署へ赴き、担当の大峯泰廣係長を訪ねると、本当にヤクザのような風貌だった。直ぐに土谷と対面。大峯係長が私を紹介してからも、黙秘は続いた。大峯係長は土谷に言った。

「ここにいる人は偉い先生なんだぞ。お前のやってることなんか、全部わかってるんだからな。黙っててもダメだから。さっさとしゃべっちまえよ」

 土谷は何も話さず、目を瞑っている。

「2人きりにしてくれませんか」

 と頼み、大峯係長と取り調べ補助担当に退室してもらった。