1986年に福井市で中学3年の女子生徒=当時(15)=が殺害された事件で殺人罪が確定し服役した前川彰司さん(59)の第2次再審請求審で、名古屋高裁金沢支部(山田耕司裁判長)は23日、「捜査に行き詰まった捜査機関が誘導などの不当な働き掛けを行い、関係者の供述が形成された疑いが払拭できない」として、再審開始を認める決定をした。
同支部が再審開始を決定したのは2011年の第1次請求審に続き2回目。明白な物証や事件の目撃者はなく、知人らの証言の信用性が最大の争点だった。
山田裁判長は、弁護側が新証拠とした当時の捜査報告書に基づき、「血の付いた前川さんを見た」という知人が視聴したとするテレビ番組は、事件当夜に放送されていなかったと指摘。知人の供述は「警察官の誘導で作り出された」と認定し、「有罪認定の根拠を揺るがす」とした。
放送日が異なることを把握しながら、公判で客観的事実として扱い続けた検察側については「不誠実で罪深い」と非難した。
この知人が今年3月の証人尋問で「覚醒剤事件を見逃してもらうため虚偽の証言をした」と述べたことについては「信用性が乏しい」と退けたが、警察官から結婚祝いを受け取っていたと認め、「警察官に対する国民の信頼を裏切り、許されない」とした。
その上で、確定判決が「大筋で一致している」とした関係者の供述が、警察に迎合した可能性があり、裏付けとしての意味合いを失っていると指摘。こうした関係者供述の信用性を認めることは「疑わしきは被告人の利益に」の鉄則にもとり、正義に反し許されないと結論付けた。
第2次請求審で検察側は、弁護側の請求を受け、警察が捜査初期に作成した書類など計287点の証拠を新たに開示していた。
前川さんはこれまで一貫して関与を否定。第1次再審請求は一度は認められたものの取り消され、22年に第2次請求を行っていた。