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晴れた冤罪。だが内縁夫の性的虐待はなかったことになった ――青木惠子さん55歳の世にも数奇な物語【再公開】

晴れた冤罪。だが内縁夫の性的虐待はなかったことになった ――青木惠子さん55歳の世にも数奇な物語【再公開】

2021/05/24

source : 週刊文春WOMAN 2019夏号

genre : ニュース, 社会

 東住吉冤罪事件――1995年(平成7年)7月、大阪市東住吉区の青木惠子さん(当時31)宅から火が出て全焼。娘のめぐみさん(同11)が亡くなった。1カ月半後、警察は青木さんと内縁の夫Bさん(同29)による保険金目当ての殺人として2人を逮捕。

 青木さんは無実を訴えるが無期懲役の判決を受け服役。しかし弁護団などの粘り強い調査により再審が決定、2015年(平成27年)10月に20年ぶりに釈放、後に無罪となった。『週刊文春WOMAN』2019GW号の『冤罪とミニスカート』で紹介したように、事件の背景には性的虐待がある。

最新話の公開に合わせ、記事を再公開する(初出:2019年8月18日)。

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15年10月、釈放され会見するBさん

◆ ◆ ◆

性的虐待をなぜどこも報じないのか?

 私がこの事件に出会ったのは3年前の8月。青木さん(55=現在)の再審無罪判決が出た日だった。大阪で司法担当になったばかりの私は、判決文を見て驚いた。内縁の夫だったBさんによるめぐみさんへの性的虐待のことが記されていたからだ。しかもそれがもとでウソの自白を迫られている。冤罪の決定的要因とも言えるこの性的虐待のことを、NHKも含めどこのマスコミもほとんど報じていない。なぜなのか?

全文は発売中の『週刊文春WOMAN 2019夏号』に掲載中

 私はBさんの無罪判決後の会見で、彼がこの問題にどう触れるのかに注目した。ところが一言も触れない。そして会見に参加している記者も誰も聞こうとしない。

 さらに後日、国賠訴訟を起こした記者会見で、青木さんは提訴の理由について、「娘への性的虐待を使って自白させた。その警察の汚いやり方が許せない」と述べた。私はその言葉をそのまま原稿にし、NHKのニュースで流れた。これはさすがに各社も報じるだろうと思ったら、国賠提訴自体は記事やニュースになっているのに、性的虐待のことはどこも触れなかった。

メディアもタブー視していた

 数日後、別の裁判の取材で、とある新聞社の記者が話しかけてきた。

「相澤さん、よく性的虐待のこと、ニュースにしましたねえ。Bさんの方から何か言われませんでしたか?」

 そんなことを気にしていたのか!

 性的虐待に触れることはタブーだったのだろう。放火殺人は冤罪でも性犯罪は有罪というのは、Bさん本人というより、そのことを報じるマスコミにとって都合が悪かったのだろう。だから闇に葬られた。それゆえ、この事件はいつまでもスッキリしない。これを解消するには、性的虐待が招いた冤罪の悲劇としてきちんと番組で伝えるしかない。そう考え、共感してくれるディレクターと番組を提案し、2017年12月にNHKスペシャル『時間が止まった私』を放送したのだ。