「調書は安っぽい小説みたい」
手を上げたのは、まだ弁護士2年目で、いろんな事件をやりたいと思っていたから。『声をかけられたら積極的に受けた方がいい』と先輩から言われていましたし、自分も勉強できる重大案件だと思いました。その時点で被告のBさんの人となりは知りませんでした。性的虐待のことも」
弁護を担当してまず取りかかるのは裁判記録の読み込みだ。記録をもらって読み始めたのが夏の暑い頃だったという。
「記録を読んでストンと胸に落ちないところがありました。ほとんどが自白調書ですけど、安っぽい小説を読まされているような気持ちになりましたね。
私は女性だから、(担当ではない)青木さんの心情に関心が向くんです。例えば青木さんが浪費をするとか、マンションを買うのにお金に困ってこういうこと(保険金目当ての放火殺人)をやったと、調書に書いてあるんですけどね。私は破産や債務整理も手がけますから浪費でお金の回らなくなっている人を何人も見ていましたけど、そういう人はどれだけ自分がお金が回らないか、収入と支出がわからなくなっていることが多いんです。でも青木さんは事細かく家計簿をつけていました。カードの引き落としはいつでいくら、支払い予定は、と全部把握してもいました。これはお金が回らなくなった人の生活ぶりとだいぶ乖離があります」
青木さんと乗井弁護士はほぼ同世代。子を持つ母親であるということも共通している。
「記録を見る中で女性としての思いが出てくるんですよ。例えば青木さんはめぐみさんの修学旅行のためにこういう買い物をした、ということを家計簿に几帳面につけています。火事の直前にですよ。そんなふうに娘のために修学旅行の準備をする人が、その娘を殺すことを考えますか?」