国(検察)も大阪府(警察)も一度も過ちを認めないし謝罪もしない。だから「実は有罪なんでしょ」とひどい噂が飛び交う。私は裁判を起こした。自分の人生を賭けて——。1年ぶりの再開で送る連載第5弾!(初回を読む)

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「今も私を犯人だと思いますか?」。無実の罪で20年獄中にいた女性に、元刑事はきっぱり答えた。「思います」。

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 青木惠子さん(57)は1995年、大阪市東住吉区の自宅が火事になり、小学6年生だった娘のめぐみさんを亡くした。それを警察は、保険金目当てに同居中の男性(内縁の夫)と火をつけ娘を殺害したとして逮捕。青木さんは裁判で無期懲役の刑となったが、獄中で無実を訴え続けた。そして弁護団が粘り強い調査と実験で「火事は自然発火。放火ではない」という新証拠を見つけ出し、2016年、裁判のやり直し=再審で無罪を勝ち取った。世に知られる東住吉えん罪事件だ。

 ところが国と警察はいまだに反省も謝罪もしない。青木さんは国家賠償訴訟を起こした。せめて間違いを認めさせ、なぜ誤った捜査、起訴をしたのか明らかにするため。冒頭の発言は今年2月の法廷でのやり取りだ。ここからは青木さん自身の言葉で語ってもらおう。

法廷での元刑事との対決後、記者会見する青木さん

 逮捕は最初から決まっていた

 1995年9月10日。あの日のことは今もはっきり覚えている。めぐちゃん(娘のめぐみさん)を火事で亡くして2か月足らず。助けられなかった後悔で体重は36キロまでやつれ、深い悲しみに沈んでいた。そんな私の自宅に早朝、二人の刑事がやってきた。坂本刑事と今井刑事。この二人の名前を私は一生忘れられない。

 同居男性と8歳の息子と3人で寝ていたところを起こされ、それぞれ別の車で警察に連れていかれた。男性に続き私が家を出ると、車の横に立つ今井刑事がこんなことを言った。

週刊文春WOMAN vol.9 (2021年 春号)

「○○(同居男性)に手錠をしなかっただけでもありがたく思え」

 何かおかしい。私たちが犯人だというの? めぐちゃんの死亡保険金の支払い手続きをしていたのが不審に思われたようだ。でもあれは多くの人が子どもにかける学資保険で、3年も前に契約している。支払い手続きも保険外交員の勧めでしただけなのに、それで疑われるとは……。

 車が東住吉警察署に着いた。そこには母と兄が息子を迎えに来ていた。前日に警察が両親に「娘さんを逮捕するから、幼い息子を預かりに来てほしい」と伝えていたことを、かなり後に知った。最初から逮捕するつもりだったんだ。