裁判長が見せた異例の対応
ここから青木さんは、警察が最初から自分を犯人だと決めつけていたことを追及する。逮捕前日に両親の元を訪れ、息子を迎えに来るように言ったのは、その証拠ではないか。すると坂本刑事は「それは捜査本部の方針ですから。自分は逮捕の1週間ほど前に捜査本部に呼ばれて捜査に加わったので」と語り、捜査本部が先に青木さんたちが犯人だという見通しを立て、自分はその見通しに沿って取り調べにあたっていたことを事実上認めた。
めぐちゃんへの性的暴行について話した時のこと。その場には坂本刑事と今井刑事だけで「女性の警察官はいませんでしたよね?」と問いかけると、坂本刑事は説明できないという。「聞くに堪えない三角関係のもつれとか、そんなことをあなたは言いましたよね」と問うと「そんな話、したことないです」と答える。青木さんは「こんなこと私が作り話で言うわけないでしょ」と詰め寄った。
有罪の決め手になった自供書について、青木さんが「あなたは一切口をはさみませんでしたか?」と問うと、「書き終わるまで待っていました」と坂本刑事。すかさず青木さんは「うそは結構」とピシッと指摘し「坂本さんがヒントをくれたから書けたんです。あなたが言うままに、娘を亡くしてふらふらになっている時に、密室でバーンと(机を)叩かれて」
ここで青木さんは思いっきり原告席の机を叩いた。大きな音が法廷に響き渡り廷内にいた全員がビクッとして青木さんを見つめた。
これは青木さんの作戦だった。机を叩いて大きな音を出せば、裁判長が当然制止するだろう。そしたら坂本刑事に向かって「坂本さん、あなたはいいわね。止めてくれる人がいて。あの時、私もあなたに机を叩かれたけど、止めてくれる人はいなかったんですよ」と言うつもりだったのだ。さあ、裁判長、早く止めて。
ところが意外にも裁判長は何も言わず平然としている。坂本刑事は「机なんか叩きませんよ」と否定する。そこで青木さんは「え~よく言いますね」と言いながらドンと両手を机に突き「あなたは手を突いて、あたしに顔を近づけて、つばを飛ばしながら、やりましたよね。認めます?」「認めません」「はい、結構です」。
ここで裁判長が初めて「青木さん、聞きたいことがいろいろあることはわかりますが、事実を確かめるということでお願いします」。机を叩いたこと自体は注意しなかった。これは異例の対応だ。