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「今度は私が刑事を“取り調べる”番だ」

 それから26年の時が流れた。私は再審で無罪となった。でも国(検察)も大阪府(警察)も一度も過ちを認めないし謝罪もしない。だから世間には「実は有罪なんでしょ」と心ない噂が飛び交う。こんなの許せない。私は裁判を起こした。自分の人生を賭けて。

 そして裁判所は、私を取り調べた坂本刑事を証人として法廷に呼び出すことを決めた。今度は私が刑事を“取り調べる”番だ。密室の取調室ではなく、法廷という公の場で。私は無理矢理”自白”させたりはしない。でも”違法捜査”の確証は引き出して見せる。

2016年8月、再審で無罪を勝ち取り、涙をこぼす

 ここから再び筆者の目線に戻る。2月12日午後、大阪地裁202号大法廷。坂本信行刑事は10年ほど前に大阪府警を退職し、今は刑事ではない。でも青木さんにとっては今も自分を取り調べて有罪に陥れた刑事に変わりはないから、その肩書きを使う。

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 証言台で坂本刑事はまっすぐ前を、裁判長の方を向いて座った。左手の原告席にいる青木惠子さんには目を向けない。質問に立った青木さんは、しっかり坂本刑事を見据えながら落ち着いた口調で問いかけた。

「坂本さん、25年と4か月ぶりの再会ですが、私のことは覚えておられますか?」

「覚えています」

 明確に答える坂本刑事。質問はいきなり核心に入る。

「坂本さんは今も私を犯人だと思いますか?」

「思います」

 まっすぐ前を向き青木さんに目線を向けないまま、きっぱり言い切る坂本刑事。傍聴席から「え~っ!」と声が上がる。でも青木さんは冷静に問いかける。

「どうしてでしょうか?」

「私に書いてくれた自供書です。私が知らないことを自分の手で書いていますから、私は真実だと思ってます」

「では(再審で無罪判決を出した)裁判所の判断は間違っていたんですか?」

「それはわかりません」

「あら、おかしいわね。あなたは私のことを犯人だと言うのに、無罪を出した裁判所のことはわかりませんって」