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過ちを認めさせる、そのために生きている
最後に青木さんは問いかけた。
「警察を辞めて10年経つのに組織を守る。私を犯人扱いする。だから私は裁判を起こしたんですよ。その悔しい気持ちを、あなたたち、わかりますか?」
坂本刑事は「取調室のことは私とあなたしか知らんことですやんか」と話をそらすと、裁判長が「質問に答えてください」と促す。
青木さんは続けた。
「あなた方が申し訳なかったと謝って、東住吉事件を教訓に二度とえん罪を生まないために検証すべきなのに、今も私を犯人という。だから私はいつまでも灰色のまんまです。裁判なんてしたくないですよ。それをさせてるのはあなたたちだってことを、坂本さん、忘れないでください」
わずか10分だが、圧巻の法廷対決だった。
裁判の後、坂本刑事は、大阪地裁の北口から出た。私が声をかけても何も答えず向かいの建物の法律事務所に入った。入り口から「一言話してください」と声をかけたが、付き添いの弁護士に扉を閉められ頭を挟まれた。その後、関西テレビの記者が待ち受けていると、坂本刑事は車に乗って、大阪府警察本部へ入っていったという。退職から10年がたっても組織に忠実で、組織に守られている。
その夜、青木さんは自室の仏壇に手を合わせ、めぐちゃんに報告した。
「坂本刑事と対決したよ。私のことを今でも犯人だと言われて腹も立つけど、自分で尋問できたからすっきりした。勝利を確信したよ。ママは負けないから見守っていてね」
20年間獄中で耐えたのだ。警察が何と言おうと過ちを認めさせてみせる。そのために生きている。
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