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晴れた冤罪。だが内縁夫の性的虐待はなかったことになった ――青木惠子さん55歳の世にも数奇な物語【再公開】

晴れた冤罪。だが内縁夫の性的虐待はなかったことになった ――青木惠子さん55歳の世にも数奇な物語【再公開】

2021/05/24

source : 週刊文春WOMAN 2019夏号

genre : ニュース, 社会

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時効のため立件できない

 青木さんとBさんが問われた罪は、2人で共謀し、青木さんが受け取るめぐみさんの保険金目当てでBさんが自宅に放火し、めぐみさんを殺害したという筋書きだった。それが再審=やり直しの裁判で、自白通りには放火はできない、火事は家にあったホンダの車からのガソリン漏れの可能性がある、自白はすべて無理矢理で採用できないとされて、2人とも無罪になった。

 ただし、放火殺人は無罪でも、Bさんがめぐみさんに対して性的虐待を繰り返した事実は残る。このことは再審無罪の判決文にも書かれている。だが、すでに20年以上がたっている。時効のため今さらこれを性犯罪として立件することはできない。

 そんなBさんの無罪を勝ち取った弁護団の主任弁護士は、女性だった。

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女性の権利を守る発信基地

 大阪市中央区。大阪城公園にほど近いビルの5階にある「女性共同法律事務所」。その名の通り、所属する弁護士6人もスタッフも、全員が女性だ。

 事務所のウェブサイトでは「女性の権利を守る発信基地!」「元気な女性を増やしたい!」「女性の権利を守るために設立した事務所です」とうたっている。実際、取り扱う事件の9割以上が女性からの依頼だ。内容は、離婚、それもDVが絡むような難しい事案や、セクハラ、性暴力、それに女性ゆえの不当解雇などの案件が多い。性差別にまつわる相談も後を絶たないという。

乗井弥生弁護士

 この女性共同法律事務所の設立メンバーの1人が、乗井弥生弁護士だ。横山ノック大阪府知事(当時)の強制わいせつ事件で、被害者の女性の代理人を務めた。大手企業の女性賃金差別事件も手掛けた。その乗井弁護士が、Bさんの主任弁護士を務めた。女性の権利を守る弁護士が、なぜ少女の人権を損ねた男性の弁護士になったのか?

 乗井弁護士は弁護士登録が1995年。つまり東住吉事件が起きた年だ。阪神・淡路大震災、そして地下鉄サリン事件の年でもある。その翌年、すでに青木さんら2人の裁判が始まってしばらくたった頃に、Bさんの弁護の話が回ってきたという。乗井弁護士は語る。

「Bさんに最初についていた国選弁護士が『これ以上やりきれない』と辞退したので、別の弁護士が引き受けることになりました。1人では大変なので、当時私が所属していた事務所に『誰かやらないか?』と誘いに来ました。その時ちょうど私がいて『私にやらせてください』と手を上げました。