10月30日に45歳の誕生日を迎えた仲間由紀恵。20歳で主演を務めた『トリック』(テレビ朝日系/2000年〜)は大きな転機となり、同作から「コミカルな芝居をするときは笑わせようと思っちゃいけない。気負わないということ」(『SANZUI』2014年秋号)を学んだという。その後も様々な役柄に挑み、プライベートでは結婚・出産も。彼女の“気負わない”姿勢は随所に散りばめられていて……。(全2回の2回目/はじめから読む)
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2006年にはNHKの大河ドラマ『功名が辻』に主演、戦国武将・山内一豊の妻の千代を演じた。時代劇では同年暮れ公開の映画『大奥』でも主人公の絵島役に起用されている。#1でとりあげた「恋のダウンロード」がスマッシュヒットしたのもこの年で、歌手としての出場はかなわなかったものの紅白歌合戦の司会を前年に続き務めている。紅白の司会はその後2008年と2009年にも務めた。
舞台にも2004年のミュージカル『スター誕生』で初出演した。この公演の千秋楽、歌っている途中でいきなり歌詞を忘れてしまう。だが、彼女は《自然と焦りもしなかったですね、ただ出ないなぁ、出ないなぁ、と(笑)。それで、ちょっと手で口元をごまかす感じで後ろを見て、四小節ぐらい考えたら、何とか思い出せたので、何事もないように歌い出し》、ピンチを乗り切ったという(『文藝春秋』2015年11月号)。周囲の人たちにも仲間のポーズが涙をこらえているように見えたらしく、《皆さん「あぁ、千秋楽だから感極まったんだね」って(笑)。で、「そうなんです」って、何とかやり過ごしました》というのが(同上)、「エヘヘヘヘヘ」と笑ってごまかす『トリック』の奈緒子を何となく思い起こさせる。
森光子の『放浪記』林芙美子役を引き継ぐことに
舞台ではこのあと、28歳だった2007年に『ナツひとり 届かなかった手紙』に主演した。同作はその2年前に放送され、戦前にブラジルへ家族と渡ったハルと日本にひとり残されたナツの姉妹を描いたドラマ『ハルとナツ 届かなかった手紙』のスピンオフ的作品である。このドラマで仲間は妹のナツの若き日を演じたが、舞台ではさらに彼女の14歳から76歳までを演じきってみせた。なお、ドラマでは老年期の姉妹のうちナツを『トリック』で仲間の母親役だった野際陽子、ハルを森光子が演じていた。森は舞台版にも声のみながら出演している。
森との縁は彼女が2012年に亡くなったあとさらに深まり、2014年にその人生を描いたドラマ『森光子を生きた女』に主演し、翌2015年にはさらに森のライフワークだった舞台『放浪記』の主人公で小説家の林芙美子の役を引き継ぐことになる。
あまりの大役に仲間もオファーをもらったときには驚いたが、森と『放浪記』の作者の劇作家・菊田一夫のいずれも知る俳優の石坂浩二は、《菊田先生のたくさんの戯曲の中でも、先生の思い入れも深く、本当にトップになるような名作だからこそ、いろんな人が挑戦することが望ましいと思う。その先駆けとして仲間さんがやるというのは、もう他に居ないなという気がしてならないんです》と、彼女との対談で太鼓判を押した(『文藝春秋』前掲号)。石坂の言葉にも後押しされ、仲間は新しい『放浪記』をつくろうと意気込み、公演に際し森の見せ場だったでんぐり返しも側転に変更して話題を呼んだ。