「仲間由紀恵さんの台本が、これはもう何回開いたんだろう、というすごい状態になっていて……」
連続テレビ小説『ちむどんどん』の公式サイトで公開されている『黒島ラヂオ』、主演の黒島結菜とスタッフがドラマの裏話を語る企画の第15週についての放送で、小林大児制作統括と松園武大ディレクターはそう語っている。
仲間由紀恵が「演じていいことに驚いた」と語った場面
『ウークイの夜』と題されたその第15週は、沖縄の旧盆に里帰りした主人公暢子を含めた家族が揃い、母親の優子が亡き父との思い出、そして沖縄戦の記憶を語るシークエンスになる。
「台本を読んだとき、沖縄戦に踏み込んで書かれてあったこと、それを具体的に演じていいのだということに驚きました」
7月25日に発売されたNHKドラマ・ガイド『連続テレビ小説 ちむどんどん Part2』の中のインタビューで、優子役を演じる仲間由紀恵はそう語っている。長い俳優キャリアを持つ彼女が、朝ドラで沖縄戦を描くこと、それを「演じていいことに驚いた」という表現を使っていることの意味は軽くはない。その驚きの裏には「描けない、具体的に演じてはいけない」という認識が過去に存在したことを物語っているようにも見える。
第15週に合わせて公式サイトで公開された仲間由紀恵のインタビューによれば、クランクインの時点で台本は第15週まで完成していたのだという。
「だから、第15週に向けて役を作っていった部分もあります。たとえば第1週、夜中に泣いてしまう優子に賢三さん(大森南朋)が寄り添ってくれるシーンは、第15週と同じ“素の優子”で演じました」
それは放送初週の第2話、民俗学者の青柳史彦が比嘉家を訪れ、那覇の空襲を優子に思い出させた夜のシーンだ。まだ黒島結菜ではなく子役の稲垣来泉が演じる暢子が夜中に起きて、泣く母の肩を抱く父の姿に「暢子は何か、見てはいけないものを見てしまった気がしました」とナレーションが語り、第2話は終わる。
「反省会」タグが注目されがちだが…
朝ドラには珍しいことではないが、『ちむどんどん』はネット上でしばしば揶揄と細部への批判の対象になっている。だが「ここが違う、あそこが気になる」という細部の違和感を別にすれば、大筋として一貫したコンセプトのもとに書かれていることがわかる。
聖化された、理想の沖縄像ではなく、失敗や問題も含めた愛すべき人間たちを描く。長女の良子と石川博夫の物語には、女性の社会進出という近代化と、沖縄の伝統社会の相克が描かれているし、ついつい駄目な長男に甘くなってしまう母の優子も、青柳和彦が抱える未熟さも、ドラマ全体を通してどう変化していくかという長いスパンのもとに描かれていることはわかる。
第2週の冒頭で急死してしまった父親・賢三が語り残したことは、第15週で母・優子から語られる。毎朝のオープニングにテーマソングと共に流れるアニメーションも、実はこの第15週で明らかになる、賢三と優子の過去をテーマに描かれていることが公式から明かされた。