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仲間由紀恵がウチナーグチで語ったセリフ

 朝ドラの枠では語り尽くせないこともある。遺骨収集活動を行う嘉手刈源次老人を演じる沖縄出身の名優・津嘉山正種は、何度も病に倒れながらその度に俳優として復帰し、現在も沖縄戦の経験者たちの証言を一人語りとして語り継ぐ活動を行っている。

 彼の名前を検索すれば、OTV沖縄テレビの公式YouTubeチャンネルがつい先月、6月に報道したばかりのニュース映像を「【戦世77年】県出身の名優・津嘉山正種さんが戦火をくぐり抜けた人々の証言を伝える舞台『戦世を語る』」というタイトルの動画としてアップロードしたものが見つかるだろう。

 全体でわずか数分のニュース映像の中のさらに一部として抜粋されたその語りの中でも、沖縄戦の証言者たちが語る記憶は凄惨を極めている。銃撃で子どもたちが倒れ、頭部を損傷してその脳漿や脳が流れ出ている記憶。医療もない中で苦しみ続ける子どもたちを見るに耐えかねて親が手にかけたという証言。それは到底連続テレビ小説の枠で映像化することはできない内容だ。

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 第15週の5日目、嘉手刈源次が沖縄戦の記憶を語る場面は、そうした沖縄戦の当事者たちでさえ語ることを躊躇う血みどろの証言の山から、連続テレビ小説の放送に耐える範囲で再構成されたフィクションだ。

『ちむどんどん』比嘉家の4兄弟(NHK公式サイトより)

 そうした、直接的に伝えることのできない現実をシンボリックに変換した描写で『ちむどんどん』の脚本は構成されている。第2話で「自分は、中国(戦線)をあっちこっち」「生きている限り、謝り続けなくてはいけないと思っています」と語った賢三が中国大陸で何を見たのか、それが直接的に語られることは第15週でもなかった。

「お父ちゃんは戦地でのことをほとんど話さなかった。ただ一度だけ、すごく後悔してることがあると言ってた」

 比嘉優子を演じる仲間由紀恵は、その後の台詞を生まれ育った流暢なウチナーグチで続ける。

「『まくとぅーそーけー、なんくるないさ』自分が正しいと思うことを守れなかったことを、すごく悔やんでいたと思う」