「ヤァヤァ、どうも、どうもでした」
そう言って喫茶店の戸が開けば、あとはあっという間だ。「チョット、チョット、久しぶり!」「ヤー、生きてたかい?」。閉まったと思った戸はまた開いては閉じてを繰り返し、約束の一時間前には全員が顔を揃える。下は七十八歳から上は九十二歳までの六人はみな、本を手にしている。
彼らは思い思いに朗読し、感想を語りあう。仲間の声に耳を傾け(傾けないことも多々)、自由で和やかな(時に剣呑な)時間が流れてゆく――。
朝倉さんの新刊に描かれるのは、老人たちの素敵な読書会だ。
「きっかけは、八十歳を過ぎた母の参加する読書会でした。昔から、近所の主婦仲間と編み物や刺繍などをする『ちいさな集まり』を楽しんでいた母が、歳を重ねてもずっと続けているのが読書会。かれこれ二十年以上になるでしょうか。見学させてもらう機会があって、これはもう小説に書きたいなと」
そこで目にしたある光景が、朝倉さんの記憶に焼き付いた。