「西田さん以外なら誰が演じられただろうか」と思わせる演技
訃報を聞いたとき、まず最初に浮かんだのは、映画『ステキな金縛り』(2011年)で落ち武者・更科六兵衛を演じている西田さんの姿だった。
負けっぱなしの三流弁護士・宝生エミ(深津絵里)は、とある殺人事件を担当することになった。現場の証拠は依頼人の犯行を示しているものの、本人は「金縛りで動けなかった」と信じ難いアリバイを主張している。しかし、依頼人が宿泊した旅館でエミも同じように金縛りに遭い、事件当夜に依頼人の上に乗っていた落ち武者の幽霊・更科六兵衛(西田敏行)と出会う。謂れのない罪で裁かれようとしている依頼人に同情した六兵衛は、証人として出廷することを決意。こうして前代未聞の裁判が幕を開ける。
脚本・監督を務めた三谷幸喜氏が「西田さんが自由に弾けられる役をやってもらいたかった」と語る更科六兵衛は、西田さんならではの“貫禄”と“チャーミングさ”が共存する唯一無二の役どころだ。西田さん以外なら誰が演じられただろうかと考えてみると……ちょっと想像がつかない。
落ち武者ヘアーでも顔面蒼白でも、どこか愛らしさが滲み出ているのが西田さんならでは。証人尋問に答えるために笛ラムネをピーピー吹いたり、某キムタクを彷彿とさせる「ちょ、ちょ待てよ」というセリフは、やはり西田さん本人のキャラクターあってこその設定だろう(もしかしたら西田さんのアドリブかもしれない)。本作を観たことがある人は、大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(NHK/2022年)で西田さん演じる御白河法皇が、源頼朝(大泉洋)の夢枕に立ったシーンにも、クスッとしたのではないだろうか。
『ステキな金縛り』は、いわば“へっぽこバディ”が難事件に挑む物語である。エミは後がない崖っぷちの弁護士で、頼れる証人は落武者の幽霊だけ。かつては六兵衛も、背任の疑いをかけられて亡き者にされた背景がある。厳しめの表現を使うならば、エミも六兵衛も世間から必要とされていない者同士なのだ。