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その言葉を口にした瞬間…
ドラマ『凪のお暇』(TBS系)を手掛けた脚本家・大島里美氏が紡ぐセリフそのものの美しさもあるのだが、西田さんがその言葉を口にした瞬間、作品にぶわっと温度が宿った感覚があった。どうしようもなさそうに映っていた夏目も、どこか魅力的に見えてきて、取り返しのつかないことを取り返そうとしている、この不器用な男の旅路を見届けたいと思ったのだ。
空白の5年間のツケを取り戻すのは容易ではなかったが、音楽の神に愛された父と娘は、やはり音楽を介して、ふたたび心を通わせる。最終回はなかなかの早足だったものの、人生に行き詰まった人たちを温かく見守る、優しさに満ちた作品だった。
「ああ、良かった。人間、死んだらおしまいよ……」
前出の『ステキな金縛り』と同じ三谷作品である映画『清洲会議』も見返した。『清洲会議』(2013年)では、ほんのわずかではあるが、生前の更科六兵衛が描かれている。織田軍と遭遇した六兵衛は相手に刀を向けるものの、戦っている暇はないと逃げられてしまう。そのとき、六兵衛はこんな言葉をこぼすのだ。
「ああ、良かった。人間、死んだらおしまいよ……」
もちろんこのセリフは『ステキな金縛り』を観た人へのファンサービスに他ならないが、西田さん亡き今、その響きは切ない。西田さんの出演作をもっと、もっと、観たかったという気持ちが募る。
けれど、作品の魅力は失われない。西田さん演じる六兵衛からは、前観た時と同じように温度を感じた。見返したどの作品にも温もりがあった。「作品の中で生きつづける」とはつまり、こういうことなのかもしれない。