2018年5月24日夜、「紀州のドン・ファン」こと和歌山県田辺市の資産家・野崎幸助氏(享年77)が急性覚醒剤中毒で死亡した事件から6年余。和歌山地裁で始まった55歳年下妻の須藤早貴被告(28)の裁判員裁判が、佳境を迎えている。

 殺人罪、覚醒剤取締法違反の罪に問われた須藤は、9月12日の初公判で「私は夫を殺していませんし、覚醒剤を飲ませたこともありません」と否認し、無罪を主張。対して検察側は「被告は夫から離婚を切り出され、遺産目的で殺害した」とし、これまで20人以上の証人尋問を実施してきた。

初公判に出廷した須藤早貴被告=12日、和歌山地裁[イラスト・松元悠氏] ©時事通信

覚醒剤密売人の男たちが出廷

「10月末までに出廷したのは、捜査に関わった複数の和歌山県警捜査員をはじめ、野崎氏の2番目の元妻、愛人ら複数の知人女性、野崎氏が利用していた交際クラブの社長、野崎氏の会社の番頭、経理担当女史ら元従業員たち他、総勢27人。事件当日、野崎邸にいた家政婦は重度の認知症のため、妹や娘が出廷しています。

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 多種多様な証人が次々と登場する中、特に注目を集めたのは10月1日の第7回公判。覚醒剤の密売人の男Aが、証言台をパーティションで遮蔽した状態で出廷し、須藤に売ったと証言しました」(司法担当記者)

 野崎氏を死に至らしめた“凶器”の覚醒剤は、事件の重要なキーワードだ。そして11月7日の第18回公判。最後の検察側証人として出廷したのが、Aの仲間で、覚醒剤密売人の男Bだった。

 別の事件で勾留中の身なのだろうか、警察官に伴われ、手錠と腰紐をつけて法廷に現れたBは、サングラスをかけたまま、弁護側の席に座る須藤を露骨に凝視。裁判長、裁判官らが入廷しても、1人だけ起立することなく、開廷を迎えた。

「Bは一貫して、自分が捌いていたのは本物の覚醒剤ではなく、“氷砂糖”を砕いた偽物だったと証言。後に本物の覚醒剤も扱うようになったが、少なくとも須藤と接触した2018年4月当時は、本物を入手するルートがなかったと。覚醒剤を売ったと証言したAとは肝心な部分で主張が異なりました」(同前)

 法廷では、“氷砂糖”を前提に尋問が進んでいく。