10月29日、秋篠宮家の佳子さまは石川県立美術館を訪問し、自身が総裁を務める日本工芸会が主催する「日本伝統工芸展」を見学した。
佳子さまをご案内したのが、輪島塗の装飾技法「沈金(ちんきん)」の重要無形文化財保持者(人間国宝)である山岸一男氏だ。元日に発生した能登半島地震では左肩を骨折。現在は金沢市のマンションに2次避難をしている。
山岸氏が、自身が出品した≪間垣晩秋≫という紫の合子(ごうし)について説明すると、佳子さまは「お怪我は大丈夫ですか?」と気遣ってくださったという。
山岸氏が振り返る。
「佳子さまはとても優し気に声をかけてくださいました。作品に使われる貝の種類についてご説明したのですが、すぐに理解してくださった。漆芸作品の材料や技法について、とても造詣が深かったのが印象的でしたね。最後は『また良い作品を作ってくださいね』と声をかけてくれて、握手をしてくださった。他にもご案内した人間国宝の先生方がいたのですが、私が地震で怪我をしたことを気にかけてくださったのでしょう。他の先生方からは、『山岸さん、特別扱いされてるね』と言われてしまいました(笑)」
約8割が被害を受けた輪島塗の従事者
元日の能登半島地震で甚大な被害を受けた石川県輪島市。追い打ちをかけるように、9月21日には奥能登豪雨が発生した。道路は濁流にのまれ、各地で電気と水道が止まり、地震後に作られた仮設住宅も次々と水没。少しずつ復興が進められる中で、異例の“二重被災”に見舞われた。
なかでも存続の危機に瀕しているのが、伝統工芸の輪島塗だ。輪島塗の従事者は市内に1000人ほどいるが、能登半島地震によって約8割が何らかの被害を受けたとされる。「文藝春秋」11月号に掲載した「日本の顔」では、山岸氏が、「災害に負けない」と能登の復興に向けた思いを気丈に明かした。しかし、その道のりは決して生易しいものではない。ここでは、現地取材によって見えてきた現状を伝える。