かつて暴力団の資金集めのために、チケットを高額転売していた「ダフ屋」。国や自治体、企業が対策を強化するなかで見事、駆逐されたが、それでもチケットの高額転売がなくならないのはなぜなのか? ここではダフ屋に替わる“新たな脅威”について解説。ライターの奥窪優木氏の新刊『転売ヤー 闇の経済学』(新潮社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/最初から読む)
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ダフ屋に替わる「新たな脅威」
こうして日本社会はダフ屋を駆逐した。しかし、組織的なチケット転売が根絶されたかというと、そうではない。当初、不要チケットの融通レベルだった個人間取引も、そこから逸脱した、営利目的の転売行為も散見されるようになっていく。さらには、ITを駆使して大量のチケットを取引して利益をあげる転売グループも登場したのである。
その背景の一つに、自動購入BOTの存在があげられる。このツールは、ネット上の情報収集を自動化する「スクレイピング」や「クローリング」と呼ばれる技術を利用して、販売サイトの情報を取得。その後、購入者の氏名や住所、クレジットカード情報の入力などの購入手続きまですべて自動で行うことができる。販売開始から数分で完売することもザラである人気アーティストの公演のチケットを取得するには、これらの購入手続きをできるだけ早く済ませる必要がある。しかしいくらタイピングの早い人でも、数秒で決済まで行うことができるBOTには太刀打ちできないのだ。さらに悪質なBOTの中には、他の購入者のアクセスを邪魔するために、DoS攻撃などで販売サイトのサーバーに負荷をかける機能も備えているものすらあるのだ。
結局、やっていることは基本的には変わらないわけだが、現代のダフ屋たる彼らには「転売ヤー」という新たな名前が与えられた。
Googleのニュース検索で現存するネットメディアの記事を調べてみたところ、転売屋、転売ヤーともに2007年12月10日が初出のようだ。
ITmediaの「今すぐ使えるアキバワード」という連載で、【PCパーツショップや家電量販の場合、その行列に並ぶ人を大別すると、(1)お祭りとデジモノを愛するコアなユーザー、(2)特定の特価品を狙い撃ちで買い求めるハンター、(3)転売目的で特価品を買う人、となる(1)や(2)の中には、(3)の人たちを敵視する人もおり、彼らを指して「転売屋」「転売ヤー」などと呼ぶ。】と解説されている。
チケットに限らず、需要が供給を大幅に上まわる局面なら、どこにでも出現する転売ヤーによる買い占めや価格の吊り上げは、全国で社会問題となっている。本書により、彼らの日常と転売のからくりを詳らかにすることが、筆者なりの問題提起となれば幸いだ。