本人の中では悩んだこともあったのでは
もちろん稲垣さんも着実に俳優としてのキャリアを築いていったものの、本人の中では悩んだこともあったのではと推察します。
とはいえ、それでメンバーとの関係がギクシャクするようなことはありません。稲垣さん自身の情緒が乱れた時期などもなかった。画面を通して受け取る印象のまま、稲垣吾郎さんはたいへん人当たりがいい人間なのです。
どんなときでも、その場の空気をさりげなく整えるのが抜群にうまい。これは『もう明日が待っている』に書きましたが、2000年に木村拓哉さんが結婚した際も、稲垣さんの何気ない優しさが光りました。
結婚の話がマスコミにすっぱ抜かれたとき、SMAPはコンサートツアーの真っ最中でした。木村さんたっての希望で、さいたまスーパーアリーナでの公演の冒頭、本人の口から結婚の報告をすることとなりました。ファンの方々がどういう反応を示すか、予想もつかなかったので、本番前はメンバーもスタッフも、全員が明らかに落ち着かない様子でした。
そんななか、稲垣さんはケータリングのパスタを、ふつうに食べていました。まわりに声をかけながら、平然といつも通りにふるまっているのです。
あとから聞いたところでは、
「あれは、あえてふつうにしていたんだよ」
とのこと。メンバーの自分が変わらないようにしていないと、スタッフも緊張しちゃうだろうからと、気をつかってのことだったと言います。
「ズボンのチャック開いてるよ」と言われ…
グループ内でも、空気を大切にしていつも人一倍周りを気にかけていました。木村拓哉さんとともに「役者部」を背負っているという意地やプライドもあったでしょうし、美形を生かした「二の線」で売り出した路線を守りたい気持ちもあったかもしれないのに、『SMAP×SMAP』ではコントにも力を入れて取り組んでくれました。
やってみるとこれがまたうまいのです。稲垣さんはコントの名手でした。たとえば「ズボンのチャック開いてるよ」と言われ「え?」と返すひとことだけでも、間や言い方の妙でオチをつけることができてしまう。ヒュー・グラントのような上質で人間味あふれる英国風コメディを、ナチュラルに演じられる。これは稀有な才能だと思います。