私は5月19日から上海に来ている。天安門事件をテーマにしたハードな書籍(『八九六四 「天安門事件」は再び起きるか 』KADOKAWA)を刊行した次の日に、果たしてちゃんと入国できるのかドキドキしながら来た先で私が調べているのは、ズバリ「中国の性文化事情」だ。
とはいえ、いわゆる性風俗関連の話は在中邦人にも詳しい人が大勢おり、今回の私の主要な関心ではない。私が知りたいのは、むしろ中国人の性意識や性的嗜好だ。近年、仕事や社会生活における中国人の思考パターンやその具体的な事例が日本国内に紹介される例が増えて久しいが、「性文化事情」というのはそのエアポケットに入った問題ではないかと感じるのである。
中国は広大であり、中国人の思考や行動を一般化することは難しいが、ライフスタイルに関係する文化は上海や深セン(香港)などの沿海先進地域から一種の雁行発展モデルをとって地方に普及していく。なので、今回はあえて上海で調べてみることにした。
大王はかく語りき
まず私が気になっていたのは、中国人男性の性事情のなかで「テクスト」はどのくらい重視されるのかという問題だ。すなわち行為それ自体にいたる以前の、バックグラウンドになるストーリーというか、設定についてのこだわりについてである。
たとえば日本人男性の場合、成人向けの動画やマンガの表現からも明らかなように、やたらにコスプレやシチュエーションへのこだわりがあるが、中国にそういうのはないのか? そこでさっそく、上海の日本人コミュニティに関係する仕事をおこなっている、上海人のエロ大王(男性、30代。以下「大王」)に話を聞いてみた。大王は語る。
大王「上海の日本語フリーペーパーに掲載されている、日本人男性向けの性風俗店の広告は、学校のイメージを前面に出したものが多いんですよ。日本の男性がセーラー服とか体操服が好きなのは、やっぱり『学生時代に触れられなかったものに触れたい』みたいな意識があるんですかねえ」
安田「そうだと思います。そこで私はずっと気になっているんですが、中国の男性にもこういうフェチを持つ人は多いんでしょうか。制服大好きみたいな」
大王「中国の中学校とか高校の制服って、大部分はジャージですからねえ……。日本の制服と違って、やらしい感じが全然ない。長袖だし、デザインもダサい。興奮のしようがないんじゃないかな」
安田「しかし、仮に日本でジャージが制服だったとすれば、全然エッチなデザインじゃなくてもフェチを感じる人が出てくるような気がします」
大王「あー、日本だといそうですね。『この手触りがたまらん』とか(笑)。でも中国でそういうのは聞いたことがないです」
安田「『上海第三実験中学の女子学生のジャージを収集したい』とか、そういう変態はいないと」
大王「ほとんどいないと思うな(笑)。もちろん中国でもコスプレみたいなものは、カップルで楽しんだり一部の性風俗店のオプションにあったりする。僕もプチSMとかコスプレは好きです。でも、ペラッペラの布地の服を着て、それで充分みたいな感じなんですよね」
安田「日本だと、ペラッペラの服では駄目でリアルな制服を着てほしい、という人も多いのではないかと思います」
大王「日本人は細部にこだわりますからね……。そこは文化の違いを感じます」