ホラーゲームの舞台「羽生蛇村」のモデルとなった廃村で

 この集落は、ホラーゲーム『SIREN』の舞台、「羽生蛇村」のモデルとなった廃村だ。

 2003年に発売された作品で、その後もシリーズ展開された人気作。かつて土砂災害で壊滅した羽生蛇村へ、都市伝説を追ってやってきた高校生が閉じ込められ、怪異に巻き込まれていく、というストーリーだ。

 実際の集落は、埼玉県秩父郡の山中にあった集落の一つだ。昭和30年頃には数十名の村人が暮らしていたという記録があり、残留物の年代から、昭和50年頃までは人が住んでいたのではないか、と推測されている。

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 そして現在では心霊スポットとしても広く知れ渡り、ここでは幽霊の目撃が絶えず、神隠しに遭うなどの噂も囁かれている。

「現実じゃないみたい……」

 目の前に広がる、かつて村だったであろう光景に圧倒された。

 森の中の道を進むと横一列に並ぶ六地蔵を見つけた。お地蔵様の前には飲み物とお賽銭が供えられていた。

 お地蔵様に挨拶をすませると、そこから近く、木々の間の平らなスペースをキャンプ地と定めた。入口から近く、廃墟もすぐそば。神社も近い。絶好のロケーションだ。

背後から強い気配…誰かにつけられているような…

 慣れないテント設営に苦戦しつつもなんとか寝床を確保した。膨らませたインフレーターマットに横たわってみる。

 ─カサッ。

 寝心地を感じる間もなく、足音のような音が聞こえて飛び起きた。やっぱりこの場所……何かいる。

 気付くと辺りはもう日が暮れてきて、ライトがないと見えないくらいの闇に包まれていた。暗闇の中、雨音と木々が擦れ合う音が森の中に鳴り響いている。

「何やってんだ俺……」

 ここにきてやっと、この廃村にテント泊する恐ろしさがこみ上げてきた。暗くなった森の中でテントを見つめながら、ようやく自分が異常なことをしていると自覚したのだ。

 穏やかな表情のお地蔵様だけが癒やしだ。僕は泊まらせてもらうお礼に500円をお供えし、いったん集落を離脱した。

 温泉へ行き、一休み。西武秩父駅近くにある温泉施設は広くて綺麗だった。たっぷりと休んでから、集落へと戻る。深夜になってからが僕の旅の本番だ。

 再び集落の入口まで戻ると、昼間に登ったときとはまったく違った雰囲気に包まれていた。昼と夜とでは、こうも違うものなのか。真っ暗なうえに、雨脚はさらに強まり濃い霧が立ち込めていた。なぜだか背後からは強い気配を感じる。まるで誰かにつけられているような感覚だ。