この世の終わりを見せてくれているような廃屋

 時刻は23時半。お地蔵様のところへ戻ってきて、ただいまの挨拶をする。

 この六地蔵の傍には大きめのお地蔵様がいたのだが、何者かが持ち去ったのか行方不明になってしまったそうだ。そのお地蔵様には触れると火傷をするという謂れがあった。その後、集落で大火事が起きたのだ。ある男が焼身自殺のためにやってきて、火を放ったという。その男の自殺は未遂となったが、廃屋のいくつかは燃え落ちてしまった。一連の騒動は盗まれてしまったお地蔵様の祟りなのではないかと言われている。

 ようやくテントまで戻ってきた。フライシートは濡れてビショビショだ。なぜか入口を開けたままにしてしまったので、中まで水が染みてしまっていた。締めて出ていったと思ったのだが……。

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※画像はイメージ ©AFLO

 果たしてここで寝られるのだろうか。そんな心配をしながら、夜の集落を見て回るために出発する。

 テントから時計回りになるように集落を歩くと、さっそく雨音に混じって声が聞こえる気さえした。雨に濡れ、霧に包まれた廃屋は、この世の終わりを見せてくれているようだ。

 壁は完全に崩れ、屋根だけが辛うじて形を留めている。積もった土にはリアカーが埋まっていた。人が生活していた痕跡が感じられ、なんだか切ないような不思議な気持ちになった。

誰もいないはずの神社内からガタンッという音が…

 高低差のある集落で、道は入り組んでいる。少し歩くと神社が見えてきた。

 木製の質素な鳥居にはしっかりと注連縄が掛けられており、現在でも管理されているとわかる。

 境内に入ると周囲から呻き声のような音が聞こえる。

 霧が一層濃くなってきた。

 賽銭箱……というには小さい、籠のようなものにお賽銭を入れた。するとその瞬間、誰もいないはずの神社内から何かを叩くようなガタンッという音が聞こえた。神社の神様が怒っているのだろうか……。僕は挨拶をすませ逃げるように神社をあとにした。

 鳥居を抜けて一礼し、さらに集落を巡っていく。

「ホラー映画じゃんこれ……」

 夜、霧、雨、そして廃村。映画の中にでも入り込んでしまったかのような光景に、少しの間、呆然としていた。廃屋の傍には地面に埋もれた自転車があった。まるで地面から生えているような様子は、時間の流れを感じさせる。

 集落の中央部には、放火があったらしき半壊した廃屋と、まだかろうじて原形を留めている大きな廃屋があった。立派な炊事場がある二階建て。この集落の長の家だったのだろうか。望遠カメラで二階を覗いてみると、なぜか天井に新聞紙が貼り付いている。見出しは「人間について」。なんだか不気味だ。