ウソ?ホント?…新幹線でのブッチャーvsブラック・タイガー対決
当時は金曜日(夜8時からの『ワールドプロレスリング』で中継)に初代タイガーマスクの試合が終わると、次週火曜日にその内容を反映した梶原先生の原稿が届き、4日間で作画を完成させ、次の週の水曜日に発売されるという流れだった。
テレビで試合を見たプロレス少年が、約10日後に発売される『サンデー』で試合を追体験する。当時はまだ『週刊プロレス』『週刊ゴング』など、後に誕生するプロレス週刊誌は存在しなかったため、『列伝』は速報性のあるプロレスメディアとしても機能していたように思う。
当時の連載で、ブッチャーとブラック・タイガーが新幹線の中で大立ち回りを演じるという場面があった。
新幹線での移動中、ブラックは同乗していたタイガーマスクに向かって、わざと聞こえるようにこんな嫌みを口走る。
〈あいつは今後、ペーパー・タイガー(紙の虎)とでも改名したらいい! なぜなら雑誌の漫画だけで強そうに仕立てられたニセモノだからな!〉
すると、横でそれを聞いていたブッチャーが、ブラックに対して「ヘイッ、ブラック!すこし口がすぎるぜッ!」と釘をさすのだが、これに対してブラックは牙をむく。
〈シャーラップ(だまれ)‼ 黒ブタふぜいが黒いトラに対してでかい口をきくな‼〉
ブッチャーは手に持っていたトランプカードを投げ捨て、立ち上がる。「いった、いった、ミーが一番トサカにくることを!」と叫び、新幹線の通路で向かい合う2人。そこで坂口征二が「やめんかあ‼」と飛び込み、騒ぎは何とか収まった。
梶原先生は「これは新幹線の名古屋―京都間で起こった実話である‼」と断言。事件の発生時刻まで書かれては、当時の僕としても信じるよりほかなかったが、後に新日本プロレスで外国人選手の担当をしていたミスター高橋さんからは「まずあり得ない」と聞いた。