1980年代前半、『週刊少年サンデー』に連載され、少年たちの心を鷲掴みにした漫画『プロレススーパースター列伝』(原作・梶原一騎)。ファンタジーと実話の融合が魅力の一つだったこの伝説的作品の制作秘話を、作画を担当した原田久仁信氏が『「プロレススーパースター列伝」秘録』で初めて明かした。ここでは一部抜粋し、倍賞美津子とアントニオ猪木夫妻が襲われたという「伊勢丹前襲撃事件」の真実に迫る。(全2回の後編/前編を読む)

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『プロレススーパースター列伝』より

資料も写真も存在しない「伊勢丹前襲撃事件」

 マスカラスの次に登場したのは「インドの狂虎」タイガー・ジェット・シンだ。70年代にはブッチャーと並ぶ日本マット界の悪役として名を上げたが、当時は猪木の好敵手が他の選手に移行していた感があり、またシンは梶原先生との接点もなかったと思われるので、原作で描かれているのは昔の時代が中心だ。

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 インド系のシンは漫画にしやすい選手だった。ヒゲのある顔も特徴的だったが、ターバンやサーベルといったツールも本人のアイコンになり、少なくともマスカラス時代の苦労からは解放された感があった。

 シンの「2大伝説」といえば、1973年の「伊勢丹前襲撃事件」と、翌年の猪木戦における「腕折り事件」だろう。どちらも本編で扱われているが、伊勢丹事件に関しては、当時の現場に関する資料がなく、すべて想像で描いた。

倍賞美津子 ©文藝春秋

 この事件では、猪木と一緒に買い物中だった妻の倍賞美津子も巻き込まれていたため、当時かなり大きく報道された記憶があったのだが、それを直接目撃したり、直後に現場に駆けつけたマスコミはなかったようで、写真の類は発見できず、僕も梶原先生の原作以上の情報がなかった。