肝機能はASTとALTをセットで見るのが基本
まずは多くの人が気になるであろう肝臓についてです。肝機能の代表的な指標としては「AST」「ALT」「γ-GTP」の3つがよく知られています。
このうち「AST」「ALT」のどちらか片方だけを測定することは、ほとんどありません。なぜなら、ほぼすべての医師がASTとALTをセットで見ているからです。
ASTの正式名称は「アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ」で、この酵素は肝臓だけでなく、実は心筋や骨格筋の細胞内にも多く含まれています。例えば、心筋や骨格筋にダメージが加わることでも血液中にASTが漏れ出すようになります。
そのため「ASTの数値が高い」からといって、すぐさま「肝臓だけが悪い」とは断定しにくく、心筋梗塞や筋疾患、溶血性貧血などによってもASTの数値は上がるのです。採血の際に思い切り圧力をかけて注射器で吸い上げると赤血球が壊れて、本来は正常なのにASTの数値が高く出てしまうこともあります。
一方、ALTの正式名称は「アラニンアミノトランスフェラーゼ」で、こちらは肝臓の中にだけ分布している酵素の一種です。肝臓にダメージが加わると、ALTが上昇します。
「それなら肝臓が悪いかどうかは、ALTだけ測定すればよいのでは」と思われるかもしれません。しかし、そうではありません。あくまでもASTとALTをセットで見ることで、医者は圧倒的に多くの情報を得ることができるのです。
1・ALTの数値がASTの数値よりも高い場合、それはつまり「慢性的に肝臓が悪い」ことを意味します。
代表的な例としては「脂肪肝」です。肝臓に脂肪がついていて、脂肪自体が肝臓の炎症を促しているので持続的にダメージが加わる。ALTは、ASTに比べると、血液中で分解されるまでに約3倍もの時間がかかる性質があり、その分、血液中に長く留まり続けます。つまり、肝臓に炎症が起き続けていると、血液検査で自然とALTの数値の方が高くなるというわけです。
2・逆にASTの数値がALTの数値よりも高い場合、様々な原因で、しかも直近のうちに肝臓にダメージが加わったことが考えられます。
例えば、服用したばかりの薬の影響も有り得るでしょう。アルコールで肝臓にダメージが加わった場合もASTの数値の方が高くなりますし、栄養学的には「ビタミンB6が低下していると、ASTの数値が高く出やすくなる」という結果を示す論文もあります。先ほども触れたように肝臓以外の心筋や骨格筋に原因がある可能性も考えられます。
健康診断を受けて「肝機能が悪かった」と思うだけで終わらせずに、是非、このようにASTとALTをセットで見比べるようにしてみてください。「何がどう悪いのか」「前回の検査と比較してどう改善したのか」が、より具体的にわかってくると思います。
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本記事の全文は『文藝春秋 電子版』に掲載されています(伊藤大介「健康診断は宝の地図だ 第3回」)。
全文では、肝臓へのダメージの蓄積という「進行レベル」を知るための数値、アルコールの影響を判断するための指標、腎機能の「進行速度」の測り方などについても、伊藤医師が解説しています。
■「文藝春秋 電子版」で一気に読める「連載:健康診断は宝の地図だ」
・第1回 健康診断は宝の地図だ 「進行レベル」と「進行速度」を意識せよ
・第3回 酒好き必読! 肝臓、腎臓のダメージが分かる「検査項目の意外な組み合わせ」
酒好き必読! 肝臓、腎臓のダメージが分かる「検査項目の意外な組み合わせ」