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「数字に強い」より「カラ元気」がいい――鈴木敏夫が語る「これからのプロデューサー論」

鈴木敏夫×大泉啓一郎『新貿易立国論』対談 #1

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「日本にはプロデューサーがいない」

 長年、アジアにおける日本企業の活動を見てきた日本総合研究所の大泉啓一郎さんは、痛切にそう感じている。少子高齢化で国内市場が縮んでいるいま、「伸びざかりのアジアの活力を取り込もう」と、官民あげてアジアの市場開拓に取り組んでいるが、成功しているとは言いがたい。

 なぜか。幕末における薩長連合のような性格の異なる組織を束ねるプロデューサーが、いまの日本にはいないからだ。そう考えた大泉さんは、数かずの優れた作品を生みだし、それを世界へ送り出してきたスタジオジブリ、そのプロデューサーを務める鈴木敏夫さんを訪ねた。

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 プロデューサーとして集団をまとめる秘訣はなんですか?

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鈴木敏夫さん ©石川啓次/文藝春秋

日本が「貿易大国」でない事実

鈴木 こうやってお話するのは初めてですが、これまで大泉さんがお書きになった、アジアの少子高齢化を指摘した『老いてゆくアジア』や、アジアの大都市に注目した『消費するアジア』、どちらもおもしろくて大きな衝撃を受けました。色いろな人に推薦しましたよ。

大泉 ありがとうございます。今回、出版した『新貿易立国論』では、日本企業を主語にして、低迷する日本経済が復活するための処方箋を考えてみました。

鈴木 処方箋があるのですか? ないですよね。

大泉 ないものを書いたのです(笑)。ただ、それを語る前に、押さえていただきたい点が3つあります。

 1つは「日本はもはや貿易大国ではない」ということです。80年代、人口では世界の3%しかない日本が、貿易では世界の10%ぐらいを占めていました。それが今、4%ぐらいのシェアに落ち込んでいる。

鈴木 そんなに落ちているのですか。