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貿易の主役は新興国・途上国

『新貿易立国論』(大泉啓一郎 著)
『新貿易立国論』(大泉啓一郎 著)

大泉 ええ。シェアだけではなく、金額も減っています。この事実をまず認識しなければいけません。どうしても日本人の意識の中には、「我われは貿易大国だ。TPPをうまくやれば経済も何とかなる」という思い込みがある。でも、そうした状況ではないのです。

鈴木 ニュースでは「貿易黒字に戻った」と言っていますが……。

大泉 それは輸入が減ったからです。東日本大震災で原発の運転が停止したため、天然ガスの輸入が急増し、日本は貿易赤字に転落しました。その輸入が落ち着いたので黒字には戻りましたが、黒字幅は震災前の半分です。

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 では、なぜ日本の貿易はふるわないのか。じつは日本だけではなく、いずれの先進国も輸出低迷に苦しんでいる。これは新興国・途上国の経済が台頭してきた影響を受けているからです。これが皆さんに認識していただきたい2番目の点です。

 2000年の時点では、世界の人口の2割しかない先進国が、輸出入など経済の8割を占めていました。逆にいえば、8割の人口を持つ新興国・途上国は世界経済の2割しかなかった。これが教科書でも習った「南北問題」です。

 ところが、先進国と新興国・途上国との格差が急速に縮小しており、いま先進国のシェアは6割ぐらい。このペースでいくと、2030年ごろに先進国と新興国・途上国のシェアが逆転します。ですから「南北問題」は終わる。

鈴木 意外と時間がかかるのですね。もっと早いと思っていました。

大泉 金額的な規模については、そう予測されています。ただ実質的には、もっと早いかもしれません。生産技術のデジタル化が進み、新興国・途上国でも先進国と同じ製品が出来るようになっています。だから「輸出も輸入も主役は新興国・途上国」という時代は、鈴木さんがおっしゃるように、もっと早く来るかもしれません。

大泉啓一郎さん ©石川啓次/文藝春秋

アジアに行く人には「向こうのほうが上だよ」

鈴木 そうですか。私自身、以前はアジアに足を踏み入れることが少なかったのですけど、ここ4、5年はタイやインドネシアなどに行く機会が増えました。周囲にも、アジアの方々とビジネスで付き合う人たちが増えてきています。

 そういう人たちに私は、「向こうのほうが上だよ」と、いつもアドバイスするのですが、受け入れる人は少ないですね。下請けだと思って付き合っている人は、たいてい失敗している。

大泉 そうなのです。日本をアジアの上に置いた「日本とアジア」という考え方から抜けられない人が少なくない。

 というのも、ほんの十数年前まで、日本のGDPは中国、韓国、台湾、香港、ASEAN10ヶ国すべての合計よりも大きかった。それが2006年には東アジア諸国・地域に追い抜かれ、2010年には中国が単独で日本を追い抜いた。いまや東アジア諸国・地域のGDPは日本の3倍以上、あと4、5年したら4~5倍になると予想されています。

 ですから、押さえて頂きたい点の3番目は、「日本とアジア」ではなく、「アジアの中の日本」と考えなければいけない、ということです。日本もアジアの一部であるという意識が必要なのです。

鈴木 日本人はみんな勘違いしているんだ。

大泉 ええ、過去の栄光は忘れないといけません。

 そこで私が考えた戦略は、新興国が強くなっているのなら、その勢いを利用すればいい、というものです。

鈴木 ズルいですね(笑)。

大泉 そう(笑)。ASEANには日本の工場が集まっている工業地帯がありますが、その規模は中国にある工場群よりも大きい。だからASEANで生産して中国などへ輸出すればいい。これが「Made by Japan戦略」です。