猟友会が“辞退”した町で何が起きているのか

 それから半年あまりが経った。その間、奈井江町では8月上旬、町内にある犬の繁殖施設の犬舎がヒグマに襲われ、3頭の犬が殺される事件が起きている。問題のヒグマは事件発生の翌日、“新体制”のハンターらによって駆除されたが、住民の不安は消えない。町外に住むハンターが奈井江町に駆け付けるには、最も近い人でも1時間はかかるからだ。

 山岸はこう語る。

「幸い今年は夏以降、ヒグマの出没はそれほど多くありませんでした。けれどもし町のど真ん中でヒグマが暴れるような緊急事態が生じた場合、この体制で対応するのは正直難しいと思う。奈井江町側もそのことはわかっているはずなのに、それ以上の対策をとっていないのは、町民の生命と財産を守る自治体としての役割を果たしていると言えるのか」

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2021年6月、札幌の町中に出没した158キロのオス ©時事通信社

 駆除の対象となるのはヒグマばかりではない。北海道においては、田畑の農作物を食い荒らすエゾシカによる食害も深刻だが、山岸らが抜けたことで、奈井江町における今年の駆除実績は低調だという。

「役場の方からウチのメンバーに非公式に『シカの数が獲れてない。ちょっと協力してくれんか』という要請がありました。ノルマがあるわけではないのですが、シカ駆除に割り当てられた予算があるので、その予算分は駆除数を確保したいということでしょう。とにかくすべてが予算ありきで動いていて、それでいいのか、という気はします」

ヒグマを撃てるハンターは“絶滅危惧種”

札幌市内の茂みに隠れていた(2021年6月) ©時事通信社

 問題は、奈井江町は決してレアケースではないということだ。

 ヒグマの生息数が右肩上がりに増える一方で、道の猟友会に所属するハンターは全盛期のほぼ半数まで低下し、しかも高齢化が著しい。猟友会が駆除を拒否する以前に、そもそも猟友会自体が存在しない自治体も今後増えていくはずだ。

「そういう意味では、ヒグマを撃つ技術のあるハンターは今や“絶滅危惧種”です。その技術をどう継承していくかも含めて、今、ここで本気で対策しないと本当に手遅れになる。それなのにどうしてこういう判決が出るのか、理解に苦しみます」

 山岸が言う「判決」とは、今回、北海道猟友会がヒグマ駆除の原則拒否方針を打ち出す直接のきっかけとなった「砂川事件」の控訴審判決を指す。

 ハンターたちはいったい何に怒っているのだろうか。

(文中敬称略)

次の記事に続く 今後クマが出ても猟師は“駆除拒否”できる…老ハンター怒りのワケ「我々はクマの駆除をしたくないと言ってるんじゃない」