トランプ再選が決まり、世界情勢が激変する今、日本はどこへ向かうべきなのか。『西洋の敗北 日本と世界に何が起きるのか』(文藝春秋刊)を刊行したフランスの歴史人口学者、エマニュエル・トッド氏は、日本の今後について、次のように分析した。
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フランスで8カ月間、沈黙したワケ
本書(『西洋の敗北』)は、日本の保護がなければ書けなかっただろう。2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻後、西ヨーロッパが受けた精神的ショックはあまりにも大きく、そこでは長い間、独立した思考は不可能になってしまった。ロシアとアメリカの間で始まったこの紛争について、たとえばフランスのような国にいながら歴史学者、そして人類学者として客観的に考えることは知的な意味で危険なこととなった。こうして私は、自国でおよそ8カ月間、沈黙を保たなければならなかった。
しかし私は日本において、まずは雑誌『文藝春秋』〔2022年5月号〕のインタビューで、そして、大きな成功を収めた〔発行部数約10万部〕書籍『第三次世界大戦はもう始まっている』〔文春新書、2022年6月刊〕を通して発言することができた。こうした成功があったからこそ、日本という偉大な国(西洋陣営の民主主義国の一つ)の威信に守られながら、私はその後、フランスでもメディアの記事やインタビューを通して議論の場に戻ることができた。そこからこの戦争に関する私の考えはさらに進展し、洗練され、2023年夏には本書『西洋の敗北』を執筆することができたというわけである。
この日本語版を通し、本書はその真の誕生の地、日本に戻ってくることになった。だからこそ、私の最初の義務はこのまえがきを通して日本の読者の皆さんにお礼を申し上げることなのだ。
日本における私の立場は幸運の巡り合わせのようなところがありながら、ある意味で理に適ったものでもある。私の家族構造に関する研究は、日本では『新ヨーロッパ大全Ⅰ・Ⅱ』〔邦訳、藤原書店、1992年~1993年刊〕を通して広く知られることとなった。
日本とドイツの類似性とは?
この本は、ヨーロッパの農村における家族構造の多様性を示したものだった。最近亡くなってしまったが、訳者で友人でもあった石崎晴己氏によると、この本の日本における大きな意義は、日本人が西洋に対して自らの位置づけができる点にあったという。特にドイツと日本の家族構造の類似性こそが、歴史における2国の不思議な、しかし危険な親近性を理解する手助けになったのだ。
「相続者は一人のみ」という慣習を持つ直系家族構造がこの2国の共通点だ。日本とドイツの類似性とは、いずれの社会も秩序化され、階層化されている点、また、同等のテクノロジーの力と工業力を保持している点、そして自民族中心主義(自分たちは世界のどの民族とも似ていないという感覚)を共有している点にある。