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『金八先生』は第3回まで基本的に1話完結型で進んできた。「十五歳の母」はその内容ゆえあらかじめ前後編にするとプロデューサーの柳井満からも了解を得ていたが、親や教師の身になって書いていくと、2回でもとても収まらず、ついに3部作となった。

「作家の筆圧を感じる」とぼそりと呟いた

 当時、小山内は1回分の脚本を書き終えるごとにいつも消耗し切った姿でスタジオにやって来た――とは、金八の同僚・左右田先生を演じた財津一郎の証言である。財津いわく《まさに命を削って書いていたんでしょうなあ。台本を見ると、よくこんな台詞が書けるなあということばかり書かれてあるんです》(古沢保『3年B組金八先生 卒業アルバム 桜中学20年の歩み』同文書院、2000年)。

財津一郎 ©文藝春秋

 伊東先生役の福田勝洋(現在は室積光の筆名で作家としても活動)も、リハーサル室に「十五歳の母」の脚本が届けられたときの光景をよく覚えていると、次のように記している。

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《社会科教師役の上條恒彦さん、家庭科教師役の吉行和子さんらも「読みました?」と衝撃をあらわにしていて、張り詰めた空気の中、黙り込んでいた英語教師役の財津一郎さん(故人)がぼそりと「作家の筆圧を感じる」とつぶやいた。台本に込められた思いの強さを、役者全員が受けとめていた》(「読売新聞オンライン」2024年4月10日配信)

「長ゼリフが嫌いな倍賞美津子さんまで…」

 もっとも、小山内が後年、《あの“愛の授業”は財津さんが、収録現場でそういうムードをつくってくれたの。それで、長ゼリフが嫌いな倍賞美津子さんまでが、感動的な授業をしてくれてね》(『ザテレビジョン別冊 「3年B組金八先生」25周年記念メモリアル』角川書店、2004年)と語っているように、あの回が反響を呼んだのは俳優の熱演によるところも大であった。しかも、金八だけではなく、教師たちがそれぞれ知恵を絞り、同じ結論に向かって授業を進めるというチームワークぶりが、この回をさらに感動的なものにしている。

倍賞美津子 ©文藝春秋

「十五歳の母」に届いた抗議の声

「十五歳の母」に対しては先に紹介したとおり賞賛の声が多数届いた一方で、抗議もあった。小山内もあるPTAの会合に呼ばれ、「ああいうものをテレビでやってほしくない」と言われたりしたという。彼女はそうした騒ぎの原因は、このドラマをマスコミが性教育をテーマにしているとしきりにとりあげたことにあると考えた。作者からすれば、そのような見方はいささか誤解しており、くだんの会合でも《「あれは愛の物語です。そして生命の問題です。決して性の問題だけではありませんから」とかなりむきになっていった覚えがあります》という(『小山内美江子の本3』労働旬報社、1985年)。